ひとりぼっちの家と静かな悪霊
咲南は帰宅すると、何も言わずに二階にある自室へ向かった。
鞄をベッドに無造作に置き、iQOSを取り出す。ベッドの縁に腰をかけ、窓を開けてゆっくりと煙草を吸う。
家々の屋根の上に薄紫色の夕焼けが広がっている。もう19時になるというのに、夏が近いせいで日が長い。
咲南の家に母親はおらず、父親は多忙でほとんど家に帰らない。母親は、咲南が小学校低学年の時に亡くなった。その悲しみをごまかすためなのか、父親があまり家に帰らなくなったのもその頃からだ。
母の死に対して、咲南の中には悲しみよりも怒りの方が大きかった。そしてその怒りの矛先は、今この部屋にいる1人の霊にはっきりと向けられている。
ため息まじりに煙を吐きながら、そっと部屋の中に目をやる。ドアの側に置いてある机の隣に、今それは静かに佇んでいる。
母が死んで以来、それがずっと咲南のそばにいる。
母を殺した、悪霊が。
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