事務局長のお願い

 その日の放課後。


 タオル片手に足早に教室を出ていく彰の後ろ姿を、なんともなしに見送る咲南。


「咲南ー、今日カラオケ行くでしょ?」


 同じグループの舞衣が目を輝かせながら話しかけてきた。好きなアイドルの新曲が出たばかりで、それを歌いたいのだろうと咲南は思う。


「んー」


 眠いからパス、と言おうとしたとき、机の上に置いてあるスマホが震えた。


 画面には『高宮友里(たかみやゆうり)』の文字。


「ごめん、仕事っぽい」


「ええー!?」


 タイミングが良いと思いながら、咲南は鞄を持ち教室を出る。


「友里?どうしたの」


 スマホを耳に当てながら廊下を歩く。


「元気そうな声ね、安心した」


 ロックバンドのボーカルだったら相当ファンがつくだろう、と思うくらいハスキーな声が聞こえてくる。


 高宮友里は、IPA(国際霊能力者協会)の東京事務局長だ。咲南と彰がIPAの認定霊能力者となった7年前、協会に配属されたばかり新人メンバーだった友里は、29歳という若さで事務局長になった。気性こそ荒いが頭の切れる、咲南たちの姉のような存在だ。


 そんな友里が、少し言いにくそうに声を潜めて言う。


「ちょっと、咲南に頼みたいことがあって」

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