拾ったパン

 お昼休みが始まるチャイムがなった直後、カバンの中のスマホが震え出した。


「咲南、ランチ買いに行こー」


 クラスメイトの美由紀が机のそばにやってきた。付け爪を新しくしたのか、上機嫌でそれを眺めている。


「おっけー」


 言いながらスマホを手に取る。着信画面には、「杉浦圭介」という表示。


「彰」


 二列後ろの席で居眠りをしている彰に声をかけると、ビクッとしながら顔を上げた。


「どした?」


「圭ちゃんから電話。出ておいて」


 不意にポーンと投げられたスマホを、寝ぼけながらもしっかりキャッチする彰。


「え、俺?仕方ないな…もしもし。あ、いえ、上野です。あ、なんか今急ぎの用事あるみたいで。…はい」


「よし、行こっか。今日朝食べてないからお腹空いちゃった」


 咲南はにこっと笑うと、電話対応をする彰を尻目に、美由紀とともにカフェテリアへ向かった。


 ランチタイムのカフェテリアでは、お弁当やパン、ジュースを買うことができる。長い時間並ぶのを避けるためには、授業が終わってすぐに行く必要があるのだ。


 お弁当を買って教室に戻ると、ちょうど入り口で彰と出くわした。


「咲南、お前仕事より昼飯を優先しただろ。俺だって早く買いに行きたかったのに」


「どうせ居眠りしてたくせに」


 拗ねた顔で文句を言う彰を、バッサリと切り捨てる咲南。


「で、圭ちゃんはなんて?」


 電話の相手、杉浦圭介はIPA東京事務局のスタッフだ。


「ああ。中学生の女の子からの除霊依頼があって、担当して欲しいって。場所は神奈川らしいんだけど」


「なんで私たちに?」


 管轄は東京都内のはずだ。


「依頼人から指名があったらしい。イレギュラーだから断ってもいいって言ってたけど、どうする?」

 

 咲南はうーん、と少し考えた後、


「いいよ、今月金欠だし。あ、そうだこれあげる」


 そう言って、手に持っていたクリームパンを彰に渡す。


「あー!これ俺が好きな・・・」


いつも売り切れちゃって買えないやつ!と続けようとしたが、咲南はさっさと教室に戻って行った。


ーー金欠なのに、わざわざ俺の好きなパンを買っておいてくれるなんて・・・。咲南・・・。


 感動で体を震わせている彰の耳には、「あれ、さっき廊下で拾ってたパンは?」「ああ、食べたそうな人がいたからあげた」という咲南たちの会話が届くことはなかった。

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