老女と指輪

先程の公園が再び見えてきた。老女の霊は、まだ砂場のあたりをうろうろしている。


「・・・・・・」


ボランティア精神など微塵も持ち合わせていない咲南だが、 この時はなぜか体が動いてしまった。


気になるものの正体は、「老女が何かを探している」という事実だった。


霊気の弱い霊体は、物体に触れることはできない。


おそらく砂場のあたりに何かが落ちていて、老女はそれを探し続けているのだろうと思った。


ーー探すか・・・。


意を決して、咲南は砂場の近くにしゃがみ込んだ。


老女の念から、探し物が結婚指輪だということはわかったのだが、如何せんこれがなかなか見つからない。


たまたま落ちていたシャベルを使って砂場を掘ってみるが、出てくるのはスーパーボールやミニカーのみだ。


そもそも、砂場だったら子供達が遊ぶのだから、とっくに発見されていてもおかしくない。


ということは・・・。


砂場のすぐ横にある花壇に目をやった。花壇といっても、手入れはされておらず草が生え放題になっている。


咲南は試しにその草をかき分けみた。


キラッと何かが反射した。


「ふう。やっと見つけた」


咲南は銀色の指輪を手に取り、老女に霊に向かって差し出した。


その瞬間。


老女の表情は穏やかになり、オレンジ色の暖かい光を放って指輪と共に成仏していった。


ーー疲れた・・・。ようやく帰れる。


と思ったのも束の間、視界の隅に見覚えのある人影が映った。


彰とーー見知らぬ女子生徒だ。


関わり合いになると面倒だと思い、知らない振りをして反対側の出口へと向かう。


「おい、待てよ、咲南!」


案の定、彰が話しかけてきた。


「何?」


彰越しにこちらを睨みつけている女子生徒は、おそらくタオルを渡したという後輩だろう。


他人の色恋沙汰に巻き込まれるほど面倒なことはない。


「杉浦さんには連絡したのか?除霊のこと」


「ううん。別に、何もしてないもの」


本当のことだ。指輪を探して見せただけで、除霊を目的とした行為はしていない。


それだけ答え、咲南は再び彰に背を向けて歩き出した。

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