第11話 君に決めた

 それからいくらか検討した結果、ふたりを召喚することにした。手早くウィンドウを操作して間もなく、空間に黒い穴が開いてそこからそれぞれ女性が歩み出てくる。


 ひとりは「エルフの聖騎士」、淡く発光しているようにも見える綺麗なゴールドブロンドと、理想的に整った目鼻立ち。キリっとした印象を与える切れ長の目に思わず引き込まれそうになる。容姿に関してはさすがいろいろな物語で「美の化身」などと称されるエルフだ。

 頑丈そうな鎧に包まれていて体型まではわからないが、防御に優れた能力値で護衛向きの特殊能力を持っている。腰には片手で扱える程度のロングソードを携えており、背中には大きな盾を背負っていた。

 せっかくだから生エルフ美女が見たいという願望が無かったとは言わない。フルプレートアーマーなのに顔は全く隠れていないところに運営の商売っ気を感じる。


 もうひとりは「猫獣人の戦士」だ。攻撃能力はもちろん、索敵能力にも優れた優秀なペットである。猫獣人と言っても猫要素は猫耳だけで他はほぼ人間だ。ダークブルーの猫っ毛をボブヘアスタイルにしており、クリっとしたイタズラっぽい目元と黄色い瞳に大人びた顔立ち。身長は高く、黒い皮鎧とインナーを着ていても隠せないグラマラスな肢体を持った美女だ。


 どちらも俺の好みド真ん中ストライクである。メイドたちと比べても甲乙つけ難い。みんな違ってみんな良いのだ。異論など認めない。


「主様、お呼び頂きありがとうございます」

「ありがとうございます、オサ」

「ああ、また会えてうれしいよ」


 エルフ娘に続いて猫娘が頭を下げる。

 あぁ生エルフに生猫耳娘だ。彼女たちが本物の生物となって目の前に立っている。ゲームのキャラだったころとは違う生身の人間だ。グラフィックでは描かれることが無かった細かい肌の質感、豊かな表情、そのどれもにエリエスたちの時とは違った感動を覚える。


「一応聞くが、君たちに名前はあるか?」


 俺の質問にふたりはそろって名がない事を伝えてくる。俺が名付けて良いか聞けば、シュトラたち同様是非にと頼まれた。彼女たちに名付けるならばカッコいいよりは可愛い、または綺麗な響きの名前にしたい。


 花や恒星、どこかの神話などいろいろと考えてみる。花は…ダメだ俺が詳しくない。恒星…マーズ?ネプチューン?なんか違う。星座でオリオン座ってのがあったよな?凄く惜しい気がする。神話…神話ね、ダメだいろいろ思いつくものはあるが、全体的に知識が浅すぎて使えない。…そうだメイラにしよう。


 改めて彼女を見る。エルフ、森の妖精、確か一部の物語では生まれ育った森の名前を部族名としているというのがあった。クインゼリスやシュトラには名字のようなものはつけなかったが、エルフである彼女にはそういうのもあったほうがいいかもしれない。名字だろ?だったら俺の名字である「鷹森」をそのまま英語に変換してホークウッドとか…うん、違和感ないな。


「よし、まずはエルフの聖騎士である君だ。君は今日からメイラ・ホークウッドを名乗れ」

「ありがとうございます!このメイラ・ホークウッド、身命を賭して主様にお仕え致します!」


 次は猫耳娘だが…チラリと猫耳を確認する。髪と同じダークブルーの三角耳、ピクピクと動く感じは非常に愛らしい。元となった猫の種類でもわかればと思ったのだが、さっぱりわからん。


「猫獣人の戦士である君はトゥーラと名乗れ」

「ありがとうございます。オサから頂いたトゥーラの名に恥じぬよう精進いたします」

「改めて、よろしく頼むよ、ふたりとも」

「「はい!」」


 跪いたふたりに立つように告げて、本題に移る。まず食事についてだ。ふたりに聞いたところによれば答えはエリエスとほぼ同じだった。まだ断定するには判断材料が少ないが、召喚している間は俺と同様に生理現象が発生するが、送還していれば時間経過が無くなる、または緩やかになると考えられる。今後も少しずつ召喚して話を聞いてみるべきだろう。


「今聞きたいのはこれくらいだ。次に…メイラとトゥーラのふたりには、俺の護衛ということで今後同行してもらいたい。頼めるか?」

「もちろんにございます!」

「お任せください」


 メイラ、トゥーラともに了承の意を示したのを確認して、ふと思う。護衛なら移動中も居た方がいいよな?いや居たほうがいいに違いない。けど、馬車にはもう乗り込める余裕はない。なら新たに騎乗ペットを出せばいいか。


「ひとまず明日からの移動にも同行してもらうつもりだが、ふたりは騎乗はできるのか?」

「問題ありません」

「アタシは…馬ならば可能です」


 メイラは騎乗に関して自信あり、トゥーラは普通の馬なら問題ないと…ふむ、彼女らに騎乗スキルは無かったはずだが、そういう設定でもあったのだろうか?まぁ乗れるというならそれでいいか。


「では先に明日乗る予定の相手を見ておくか?」

「そうですね。お願いしてもよろしいでしょうか?」

「あぁかまわない。それじゃあ一度外に出よう」

「お手を煩わせてしまい申し訳ありません」

「気にするな」


 彼女たちを連れ立ってテントを出た後、早速騎乗できるペットを召喚する。最初は俺にとってお馴染み、というかチュートリアル中に一番最初に手に入るペット「馬」だ。

 特別な力は何もない。ただしレベルは最大になっているので、そこらの雑魚に負けることは無いだろう。少なくとも斥候部隊の連中程度なら余裕で勝てると思う。


「久しぶりだな…」


 黒い穴から姿を現した馬を見て「スペランツァ・ディーオ」を始めたばかりの頃を思い出した。俺にとって初めてのペット。レベルを最大にしてからはほとんど使う事も無かったが、あの頃のレベル上げは非常に面倒だった。

 召喚された馬は俺の言葉に反応するように嘶きを上げ、俺にすり寄ってくる。軽く頭と首を撫でてやると嬉しそうに俺の手に頭を押し付けてきた。


「そういえばお前にも名前がなかったんだよな。そうだな、だったらお前は今日からバステンだ。バステンは明日からこっちのトゥーラに力を貸してやってくれ」

「バステンさん、よろしくお願いします」


 俺とトゥーラの言葉に応えるようにバステンは頭を下げ、彼女の横に並ぶと、トゥーラがバステンの首を撫でる。どうやらこちらは上手くいきそうだ。


 続けて召喚する騎獣は、バステンとは違ってある程度戦闘も可能なペットだ。

 黒い穴から姿を現したのは黄土色の鱗を持った小型恐竜のような姿をしたペットだった。「戦用騎竜」という種類で移動速度はもちろん、攻守にも優れている。

 重い鎧を纏ったメイラだから、普通の馬より能力の高いペットの方がいいと考えた結果だ。戦用騎竜が「クルルゥ」という喉を鳴らす高い音を出しバステン同様俺にすり寄ってくる。それを丁寧に撫でてやりながら、話しかけた。


「よく来てくれた。お前にも名前を与えよう。今日からお前はサンディナだ。サンディナも明日からそこにいるメイラに力を貸してやってくれ」

「よろしくお願いします」


 サンディナはメイラとしばし見つめ合った後、ひと鳴きしてメイラに寄り添った。こちらも特に問題なさそうだ。


「大丈夫そうだな。ではメイラ、サンディナ、トゥーラ、バステン…明日以降しっかり役目を果たしてくれ」

「「お任せください」」

「メイラ、トゥーラのふたりはテント内で休め。バステンとサンディナはあそこにいるシュトラの指示に従って休んでくれ」


 それぞれに指示を出し終えて、テントへと戻ってからエリエスに風呂へ行くことを伝える。そのときエリエスから他のメイドやシュトラからの聞き取りの結果報告を聞いて、俺の予想が正しいという根拠が増えた。

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