第18話 アースゴーレム
残った男を締め上げて、必要な情報を引き出した後に始末した俺たちは作戦決行のための準備に取り掛かった。
まずは死体の隠蔽だ。できるだけ俺たちの事が相手側に知られるのは遅い方がいい。というわけで、「アースバインド」を応用して死体の下に穴を開けて落とした後、さらに魔法を使用する。
―攻勢魔法『
発動した瞬間、俺の手元から炎が球の形を成して穴の中の死体へと放たれた。着弾した炎は瞬く間に死体を焼き尽くし、跡形もなく消し炭にした。
同じように人数分の魔法を発動して、穴を埋めてしまえば終わりだ。
次は出入口の封鎖だ。もちろん秘密の抜け穴など、下っ端では知りえない場所はさすがに無理だが、一般的なものだけでも塞いでしまえばそれなりに効果はあるだろう。
塞ぐ手段は補助魔法「アースウォール」でいいだろう。その名の通り土の壁を作り出すもので、出入口のようなそこそこ大きさがあるような場所に使うには丁度いい。
聞き出した各場所に向かって「アースウォール」を使用し、入念に塞いで、ちっとやそっとでは壊れないようにする。
出入口は八ヶ所、その全てを塞いで、最後の仕上げとばかりにペットウィンドウを開く。
「出てこい」
言葉と共にウィンドウの操作を終える。すると大地が揺れ、徐々に地面がひび割れて、その下から巨大なものが現れた。
―オォォォォォォ!!
空気を震わせる重低音で咆哮を上げる岩の巨人「アースゴーレム」ゲーム時の召喚演出そのままの姿に思わず顔がにやけてしまった。
アースゴーレムはクインゼリスと同じように召喚時に特殊な演出が発生するレアペットだ。高い攻撃力と耐久力を持ち、肩に乗って移動手段にすることだってできる。
「さっそくだが、命令だ。ひとりも逃がすな、存分に暴れろ」
―ゥオォォォォォォ!!
登場時よりも気合の入った咆哮が響き渡り、周囲が俄かにざわめき始める。これだけ大きな咆哮を二度も上げれば気付かれて当然だろう。
俺たちはアースゴーレムを陽動に使って、手薄になった奥の道へと駆け抜ける。
リキャストタイムが終わって再使用が可能になった「ハイド」を使用し、動揺した様子の見張りの脇を抜ける。その際念のため見張りの首を斬り、息の根を止めておいた。殺された奴らはどうやって自分が死んだかもわからなかっただろう。
通路を進んでいると分かれ道に出くわしてしまう。そこで一度立ち止まり、人間の気配を探る。その結果、この道の先もいくつかに枝分かれしているのがわかった。
そこで新たにペットの召喚を行う。最初は戦闘能力を実際に見た事のあるメイラ、次に召喚するのは「エルフの射手」メイラに続く二人目のエルフだ。
既に見慣れつつある黒い穴から、長身の金髪、金目の美丈夫が姿を現す。嫌味なほどに整ったその容貌は、そこらのアイドルやモデルではとても太刀打ちできないだろう。優し気な笑みを浮かべたその姿は、神話を表現する絵画で描かれていてもおそらく違和感は無い。
「あぁ…主様、お呼び頂きありがとうございます」
「よく来てくれた。お前の働きに期待している」
「はっ」
やたら大仰な身振りで話しかけてくる男エルフ。まるで芝居でもしているかのようなテンションだが、どこか様になっているのはやはり美形だからだろうか。とりあえず名前の方は後回しだ。
続けて俺は少し変わり種のペットをまとめて召喚する。
黒い穴から元気に飛び出してきたのはRPGでよく見かける宝箱だ。その中でも自らが動く宝箱と言えばミミックだろう。そのミミックが四体、俺の目の前で整列して大人しくなる。
ミミックと一口に言っても、いくつか種類が存在する。外見はどれもほとんど変わらず、蓋部分に付いた宝石の色が違うだけだ。
だがコイツらには他にはない特殊能力がある。
赤い宝石のついたミミックは「ハンターミミック」という名称で「レアドロップ率アップ」の能力を持っており、敵を倒した際レアなアイテムをドロップしやすくなる。
青い宝石のついたミミックは「トレジャーミミック」という名称で「取得アイテムレア度アップ」の能力を持っており、探索中に見つけた宝箱などを開けた際に、その中身のレア度が上がるというものだ。
黄色い宝石のついたミミックは「コレクションミミック」という名称で「採取時品質向上」能力を持っている。調合に必要な薬草の類はもちろん、鉱物や食材アイテムなんかにも適応される。素材の品質が高ければ、調合や錬金、鍛冶といった生産技能を使用した際、成功率の上昇にも繋がるので、重宝される能力だ。
紫色の宝石のついたミミックは「アルケミミミック」という名称で「錬金」の能力を持つ。これはほかに比べてもかなり特殊で、このミミックのアイテムストレージに保管した物をふたつ以上選択して、「錬金」することでランダムで別のアイテムに変換する能力を持っている。
ただし素材にしたアイテムのレア度によって、変換されるアイテムのレア度にも影響を与えるので、レア度の高いアイテムが欲しい場合は相応にレアなアイテムを投入する必要がある。
ルールとして、錬金結果はメインとサブの素材の平均レア度の一ランク上から二ランク下のアイテムのどれかになる。
一応追加で三つまで別の素材を入れることができるが、こちらは錬金の成功率を上げるための供物扱いだ。
とまぁいろいろ説明してみたが、結局のところ今回使うのは「アイテムストレージ」だけなので、他の能力に関してはオマケ程度だ。
どうやらミミックたちは喋る事はできないらしく、口をパカパカやりながら飛び跳ねるだけに留まっている。…こいつらにも名前考えなきゃダメかな?
「この先枝分かれしている道がある。俺以外はそこのミミックを連れて、道中の敵を倒し、金品の回収をおこなえ」
「「「かしこまりました」」」
俺のペット…配下である三人は声だけでなく礼まで綺麗に揃えて行うのに対して、カーレからは何故か返事がない。
「あ、あのっ」
「カーレか、なんだ?」
「私も…でしょうか?」
「何を言っている?当たり前だろうが」
「いえ、あの、その…ミミック…ですか?そのそれで一体どうすれば…?」
「ああ、そうか。説明が必要だったな」
カーレが初見であるミミックの特性など知っているわけがなかった。これは俺の落ち度だ。
カーレにミミックの能力について説明し、今度こそ進もうとした時…
「主様、御身の護衛はどう致しますか」
「ああ…そうか。そうだな。ではメイラ、君は俺についてこい」
「はっ!ありがとうございます!」
メイラに護衛を命じたのは俺だ。ならばそれを俺が自ら覆すわけにはいかない。自分で戦う選択をしてもいいだろう。時に単独行動を取ることだってあるだろう。それでも、護衛に任じた彼女たちがいるならば、せめてどちらか一方でも傍には置いておくべきだ。
トゥーラが「先を越された!」みたいな顔をしている。可哀想だが今回は別行動だ。男エルフとミミックたちには敢えて触れない。
となれば、別の誰かを呼び出さないとダメか。まぁ荒事に向いたペットは沢山いるので、そこから適当に選べばいい。
そんな中で選んだのは「人狼」だ。猫獣人であるトゥーラとは違い、その姿は完全に二足歩行の狼である。姿を現した人狼は二メートルを超える身長と、非常に発達した筋肉、なにより動物特有の威圧感が感じられる。
「ヨビダシ、カンシャ、ワガアルジ」
「あぁ、よろしくな」
人狼はどうやら話すのは苦手らしい。まぁ発声器官が狼のソレでは難しいのは仕方ないだろう。しかし、その瞳からはしっかりと知性と理性を感じ取れる。
なんにしてもカッコイイな人狼!雷鳴龍の時にも感じたが、ゲームやアニメでよく見かける生物が目の前にいると思うとテンションが上がる。
人狼にも先ほどと同じ説明を行い、今度こそ先へと進み始めた。
俺とメイラは正面の道へ、右の道へトゥーラとカーレ、左の道へはエルフの射手と人狼が向かった。
――――――
トゥーラとカーレが進み始めて、すぐに別れ道が見えた。
彼女たちは互いに言葉を交わす事無く、二手に分かれた。トゥーラは右へ、カーレは正面へ進む。
トゥーラが進んだ右の道は、倉庫のような場所だった。様々な物が保管されており、それを管理する人間がちらほら見えるものの、戦闘能力は粗末なものだった。中には護衛なのか他よりはマシな者もいたが、雑魚に毛が生えた程度で全く話にならない。
彼女の能力を考えれば、それらを始末するのは至極簡単であった。
「失敗したなぁ…アタシ要らなかったかも」
そんな言葉を漏らしながら、せっせと食べるように倉庫内の積荷を自身のアイテムストレージへ放り込むアルケミミミックの様子を眺める。
そこから視線を外し、さらに通路の先を見つめてため息を吐く。そこにはこの場所と同じような倉庫部屋がいくつも並んでいた。
一方カーレが進んだ先は、多くの人間がいた。見張りの兵隊と、商品である奴隷だ。
大部分はスラム街の住人だ。身寄りのない子供や、見た目の良い女や男、中には戦闘向きの者もいた。
他にもどこかから誘拐されてきた者や言葉巧みに騙され借金を負わされた者、怪我によって働けなくなった者などこの場所に居る理由は様々だ。
カーレは考える。この奴隷たちをどうするべきかと。
ケーリヒが命じたのは「敵の排除」と「金品の回収」である。
(奴隷は後回しでいいだろう。今やるべきは敵の排除だ。)
牢に繋がれた虚ろな目をした奴隷たちを無視してカーレは見張りの兵士たちに襲い掛かる。
彼女が神と崇めるケーニヒや、彼の配下であるメイラ、トゥーラたちとは比べるべくもないが、それでもカーレという女はこの世界では強者の部類だった。
一部の者しか使えない隠形の技能。それをさらに戦闘向けに昇華させた、武闘隠形術とも言うべき能力を使用した彼女を捉えられる者はこの場にはいなかった。
異様なのは彼女が殺した見張りたちの死体が、倒れた傍から動く宝箱に呑み込まれ、消えていく光景だろう。
それまで虚ろな表情で事態を傍観していた奴隷たちも、このときばかりは恐怖し悲鳴を上げるのも仕方のない事だっただろう。
左の道へ向かったエルフの射手と人狼。彼らも一切言葉を発する事は無く、別れ道が見えた際も、ひと時も止まることなくそれぞれの位置から近い道へ駆け抜けた。
彼らの進んだ先から怒号が上がり、次の瞬間には悲鳴に変わった。後に続くミミックたちも、自らに命じられたことを忠実に遂行していく。
エルフの射手はケーニヒの前に居た時とは別人のように静かに、鋭い眼光で得意な弓術を使って遠距離から一発必中の矢を放つ。
その力は絶大で、一射するだけで直線状に居る敵がまとめて射抜かれた。
彼の持つ特殊能力「
さらに彼の持つ矢筒には、常に矢が補充され弾切れを起こすことがない。それはほかの能力と合わさって、非常に強力なものとなっていた。
人狼は思わず顔を
本来人狼は鋭い爪と牙はもちろん、人間を遥かに超えた身体能力に加えて、狼の持つ鋭い感覚をも備えている。
中でも嗅覚は彼にとって一番鋭い感覚だ。それが悪臭で刺激されることは、何より彼にストレスを与えていた。
その鬱憤を晴らすように、目につく敵を爪の一撃で切り裂いた。咆哮を上げ、獣のように乱暴に敵を狩る。
大変なのは彼に着いてきたトレジャーミミックだ。人狼の殺し方は粗く、手足が千切れているのは当たり前。酷い者は内臓が飛び出し、辺りにまき散らされている。
ミミックたちの「アイテムストレージ」は、ケーニヒの使う「アイテムウィンドウ」とは別物だ。彼らの主たるケーニヒが使うのは、一部に触れさえすれば、その全てが収納されるのに対し、「アイテムストレージ」は直接口の中に放り込んだ分しか収納されない。
ただし、取り込んでしまえば内部で自動的に敵の持つ金品を仕分けることができる。それを駆使してどうにか置いて行かれないよう頑張っているのだ。
トレジャーミミックはそんなことなどお構いなしに突っ走っていく人狼の後を必死に片づけていくのだった。
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