第4話 実験
実験というのはもちろんR18的なアレではなく、蘇生アイテムが使えるかどうかだ。蘇生アイテムにもいろいろ種類があるが、今から使うのはゲーム内で店売りしているものだ。もちろん下級レッドポーションと同じく限度数一杯まで持っている。これだけあれば多少使ったところで惜しくもない。
アイテム名はそのまま「初級蘇生薬」。死亡したキャラクターに使用することでHP1の状態で復活するアイテムだ。「初級蘇生薬」の名から分かる通り「中級」もあるし「上級」や「特級」の蘇生薬だって持っている。ほかにも対象がひとりではなくパーティメンバー全員に効果を及ぼすようなものもあるので、これくらいの消費は許容範囲内だ。
幸いと言うべきか、実験に使える死体が四人分ある事だし、今のうちに使えるのか試しておくべきだろう。
というわけで、最初にアイテムウィンドウから取り出したのは、俺が最初に真っ二つにしてしまった一番損傷の大きい死体である。他の三人も真っ二つには違いないが、頭まで真っ二つになったのはコイツだけだったのだ。言ってて気持ち悪くなってきたな。
さすがに見るに堪えない状態のため、さっさとアイテムを使用する。使う前にちらりと女の方に視線をやると、先ほどよりも視線に力がなくなっていた。どちらかと言えば怯えているような印象だ。
突然目の前に仲間の惨殺死体でてきたら、そら怖いわ。
極力気にしないようにして、アイテムウィンドウから「初級蘇生薬」を取り出す。出てきたのは陶器でできた徳利そっくりの入れ物だ。こちらもコルクで蓋がしてあり、中には白い粉末状の薬が入っていた。もし麻薬捜査官とか居たら、速攻手錠かけられそう。
マヤクジャナイヨ、ゾンビパウダーネ。誰が信じるんだろう?
ポーションと同じように粉を死体にふりかけてみると、キラキラと輝きを放ち死体に粉がまとわりつく。粉が全身を覆うと、死体が発光しはじめ、次の瞬間には傷跡の無くなった綺麗な人体がそこにあった。
とりあえず先ほどの女と同様、衣服を剥ぎ取る。剥ぎ取る途中で気付いたが、残念ながらこちらは男だった。引き締まった筋肉のわりにほっそりとした体、身長は180程度。顔は…ワイルド系イケメンとかの表現が似合いそうだ。年齢は、四十ちょっとくらいだろうか?一瞬、こいつも達磨にするかどうか考えたが、考えがサイコ染みたきた事を自覚して踏みとどまった。
剥ぎ取った衣服から凶器を回収し、衣服を縄状にしてキツく手足を縛って身動きできないようにしておく。その際見苦しい物も覆い隠した。再度死なれても困るので、ポーションで少しだけ回復させてから、男の頬を張って起こす。
間もなく、目を覚ました男。肌や瞳の色は先ほどの女と同じだ。出身地が同じなのか、もしくは血縁か。
「…目は覚めたようだな」
「…」
このパターン嫌いだなぁ…。
「状況は理解しているか?」
「…」
おそらくだが、状況の理解はできていないようだ。不審げにこちらを見てくるが、『困惑』の度合いが大きいように感じる。死んだ記憶はあるだろうから、仕方のないことだと思う。
「面倒だから先に言っておくが、俺はこれ以上お前らに手荒な真似をするつもりはない。まあお前らが襲い掛かってこなければの話だけどな」
「……」
「そのうえで聞く。お前ら…何だ?」
「…」
一言くらい喋れ…という気持ちで軽く睨みつけてみるが、男の反応は鈍い。ひとまず男は後回しにして他の奴からも聞いてみようと、再びアイテムウィンドウを呼び出す。
面倒なので残り三体の死体をすべて取り出して適当に並べ、続けて初級蘇生薬を取り出そうとしたところで、唐突に達磨女が叫んだ。
一瞬すぎて上手く聞き取れなかったが、少なくとも俺の知っている言語ではなかった。敢えてマイナーな言語を使うことで俺に嫌がらせをしている可能性もないではないが、この場合は普通に使用する言語が俺とは違うと考えた方がいいだろう。
俺が女の方へ視線を向けると、一瞬ビクリと体を震わせたものの、恐る恐るといった感じで再び何かを話し始める。何故かそれを遮るように男の方もしゃべりだし、二人で口論をはじめてしまった。
リスニングは苦手だ。抑揚のついたお経のようにしか聞こえない…と思っていたのだが、唐突に耳元でジジッとノイズのような音が聞こえはじめる。
「…から…に…べきだ!」
「……を……いる…ったか」
ノイズの発信源を辿ってみれば、今なお言い争っているあの二人の声だ。言葉の途中にノイズが入っている。最初はほとんど聞き取れなかったものが、だんだん聞きなれた言葉のように聞こえ始め、最終的には…
「いい加減にしろ!お前は任務を放棄する気か!」
「そういう次元の話ではないんです!隊長も見たでしょう!あのお方は我々では相手になりません!そもそも敵対するのが間違っていたのです!」
てな具合に、ものの見事に聞き取れるようになっていた。スピーディーなラーニング的アレも真っ青だ。
「盛り上がってるとこ悪いが、その辺にしてもらえるか?」
「「っ?!」」
俺の言葉に応答がないのは先ほどまでと一緒だが、今回は明らかに意味が伝わっている手ごたえがあった。よくわからないが、本当にご都合主義万歳。
「俺はお前らにこれ以上危害を加えるつもりはない。だが、敵対するなら話は別だ。素直に質問に答えるなら良し、答えなければ敵対の意思有りと判断してもう一度殺す。もちろん質問にも答えず逃亡した場合も容赦はしない。理解したか?」
俺の言葉を飲み込むようにしばしの沈黙が続く。意味は伝わったはずだ。…伝わったよな?
「…俺はあまり気が長い方じゃない。了承するなら頷け。反応なしならそれも敵対とみなす」
俺がそういった瞬間、女の方がブンブンと音がしそうなほどの勢いで頷いた。それに合わせてたわわに実ったアレもブルンブルンと激しく動いている。…眼福です。男の方も複雑そうな表情ではあったものの頷いたのを確認した。とりあえず質問しても問題ないようだ。
「それじゃ、早速だがひとつ目の質問…の前に先にこいつらか」
そう言って視線を向けた先には、放置されたままの惨殺死体。俺の言葉を聞いた男がビクリと体を震わせたかと思うと、憤怒の表情でこちらを睨んできた。
本職ヤクザも真っ青な明確な殺気に小心者の俺は内心ビビりつつも、外面は何でもないように表情を取り繕った。
…取り繕えてるよな?
「勘違いするな。悪いようにはしないから黙って見てろ」
今にも飛び掛かってきそうな男にそう言ってから、死体に蘇生薬をかけた。その効果はすぐに表れ、先ほどと同様の発光現象を伴って、死体の損傷が修復される。
その光景を茫然と男が眺めている中、切り裂かれた服以外は完全に無傷の状態に戻った三名がその場に横たわっていた。そこへさらに回復ポーションを使用すれば終わりだ。殺した際に切り裂いた衣服までは修復されないため、切れた場所から地肌が見えている。意図したわけではないが、一様に胸元付近が切り裂かれていたために、チラチラ見えるソレのおかげで性別判断は比較的楽だ。なにが見えているかはこの際言わない、あくまで性別判断のための材料として確認しただけだからだ。
内訳としては男がひとり、女がふたりだ。意外にもこのグループ五人中三人が女という事になる。大きさも大中小コンプリートだ。何がとは言わない。
生き返らせた奴らはしばらくすれば目を覚ますだろう。今更だが、人数がそろえば再び襲い掛かってくるかもしれない。今のうちに拘束しておくべきか。
一応思いつくのはバインド系のスキルだろう。魔法職が覚える補助魔法の系統で、敵の行動を阻害する効果を持つ。まあゲームなので、一定時間での拘束しかできないし、相手のステータスや相性によって拘束できる時間も変化する。もちろんバインド系の魔法そのものが無効化されてしまう敵もいるが、これは今は置いておく。
あまり状況に適したものでもない…が、実験だと思えば多少有意義ではあるか。では、何を選択するか?
どうせなら頑丈で効果時間の長いものがいい。効率を考えるなら装備も剣から杖に切り替えたほうがいいだろうが、今回は変更なしでいいだろう。
魔法を使用するために意識を集中すると、視線を動かすだけでターゲティングが完了したのがわかる。パソコン画面を見ながらマウスで操作するよりも断然楽だ。
―補助魔法『アースバインド』
念じると同時に地面が蠢いたかと思えば、部分的に隆起して目の前の五人の身体にヘビのように巻き付く。
突然の出来事に意識のある二人は悲鳴を上げたが、土のヘビは容赦なく五名すべてを締め上げ、その状態のまま硬質な石と化した。
「なっ?!なんだこれは?!」
「途中で邪魔されても煩わしいからな。一時的に動けなくしただけだ。痛みはないだろ?」
「くっ…」
文句しかなさそうな顔で男が歯噛みするが、反論してくる様子はない。ほかの奴らも今ので目を覚ましたようだが、特に何か言うことはなかった。単に状況についてこれていないだけかもしれないが、どうでもいい。
「それじゃ最初の質問だ。お前らは何だ?どうして俺を狙った?」
「…っ」
男は答えない。さっき答えると約束したばかりなのに、もう約束やぶりやがった、などと俺がそんな風に考えていると…
「あっ…あの!」
「ん?」
「カーレ!」
声を発したのは、俺が達磨にしてしまった女だった。拘束した岩の隙間から女性の象徴が丸見え…ではなく、女が声を発したことに焦り、男が大声を上げて女を黙らせようとするが…
「邪魔をするな」
―補助魔法『アースバインド』
俺は再び先ほどと同じ魔法を発動させ、意図的に魔法を操る。先ほど魔法を使った時に気付いたのだが、どうやらここで使用する魔法は俺の意思である程度制御ができるらしい。
今回はアースバインドの形状変化だ。地面の一部が隆起してヘビのように蠢くのは一緒だが、その動きを制御して男の口をふさぐような形にすることができた。鼻までは塞いでいないので、窒息死することはないだろう。
男がなおもモゴモゴと何か言っているが、今までの態度を見るに到底俺に有利な事を喋ってくれるとは思えなかった。いちいち邪魔をされてはたまらん。
「これでいいか。確か…カーレと呼ばれていたな?」
「は、はい!」
「それで、お前は質問に答えてくれるのか?」
「も、もちろんです」
妙に素直なのが気になるが、答えてくれるというなら助かる。強面のおっさんを相手にするより、女を相手にする方がよっぽど気が楽だ。…目の保養にもなるしな。
「そうか。では教えてくれ。お前たちが何者なのか、そしてどうして俺を襲ったのか」
「はい!私たちはカドヴォス帝国の斥候部隊です。先ほどは今回の戦場となる地で伏兵や罠などがないか調べる任務を与えられておりました。…それで、その、あなた様に対して攻撃をしかけたのは……」
途中までハキハキと喋っていたカーレという女だったが、俺を襲った理由に対しては非常に言い辛そうに言葉を濁す。
「…俺が敵国の人間だと思った…か?」
「…その通りです。服装を見るに、あなた様が非常に高い地位の貴族だと判断いたしました。なぜこのような場所に護衛もつけず、お一人で居られたのかなど疑問点も多かったのですが、その点も含めて捕らえてから内部情報を得るつもりでした」
「それは…残念だったな」
「え?」
「俺がお前たちと戦争している国の人間ではないってことだ。だから情報など端から知らん」
「そうでしたか。…その、今更このような事を言っても意味はないかもしれませんが、本当に申し訳ありませんでした!」
達磨女、改めカーレが拘束された状態のまま頭を下げて謝罪をしてきた。俺が言うのも難だが、そんな簡単に信じていいのか?
「…単純な疑問なんだが、お前は俺の言う事を信じるのか?」
「もちろんです!」
何故だろう、すごくキラキラした目で俺を見ている。最初の敵意はどこへ行った?いや、まあ信じてくれるのならその方がいいのだが…、腑に落ちない。
「次の質問だ。あそこで戦っているのはカドヴォスとどこなんだ?」
「え?あ、はい。私たちの国と戦っているのはユーリシア王国です」
「どっちがカドヴォスになるんだ?」
「えーっと…あの黄金の旗は見えますか?」
「ああ(アレ黄金のつもりなのか…)見えるぞ」
「そちらが我らカドヴォス軍の旗になります」
「そうか。…ちなみにどちらが優勢なんだ?」
「それはもちろん、我らカドヴォスでしょう!なんせ大陸一の軍事力を誇る大国ですからね。ユーリシアもそれなりの大国と言ってもいいでしょうが、カドヴォスが負けるはずがありません」
…なんか凄く偏見がある気がする。身内贔屓というか、ただのお国自慢のようにしか聞こえなかったし、このあたりの情報は鵜呑みにしない方がよさそうだな。
「…ここから一番近い村か町はどこだ?」
「ここからですと…、ユーリシア王国のトレカ辺境領が一番近いと思います」
カドヴォスにユーリシア、さらにトレカ辺境領ね。デュエリストとかが大勢いるのだろうか?それはさておき、現実どころかゲームでも聞いたことのない地名ばかりだ。スキルやステータスの恩恵がある時点で日本どころか地球という線もほぼ消えている。完全に別ゲームだ。VRやらARやら最近はいろいろ技術が進んでいるようだが、さすがにいきなりここまでリアルな物は開発できていないだろう。なので、サプライズで俺がこのゲームのテスターに選ばれました…的な展開もない。
要因として思いつくのは、やはりあの「真・転生石」とか言うアイテムだ。「転生石」ではゲーム上でキャラクターのレベルが1に戻るだけだが、「真・転生石」を使った場合、本当に転生してしまうとか…自分で言っててなんだそりゃという感想しか出てこない。
転生…転生ね。転生っつったら普通赤ん坊からとかじゃねーの?あ、いやそうでもないのか?別の世界に「転」移して、違った「生」を送るとかいう意味か?…どうでもいいか。
「そのトレカ辺境領までの道はわかるか?」
「はい。…あの、もしかしてそちらへ向かうおつもりでしょうか?」
不安そうに俺を見るカーレ。…別に隠すようなことでもないし別にいいか。
「そうだな、手っ取り早く街に行くなら近いほうがいいだろ?」
「あ…そ、その……はい」
「…心配せずとも、俺の気に障るようなことが無ければ無暗に敵対はしない」
「し、失礼しました!」
俺の言葉に怯えつつも、どこか安堵したような表情を見せるカーレ。聞きたいことが無いわけではないが…そろそろいいか。
「俺からの質問は終わりだ。俺の疑問に答えてくれた礼をしよう」
その言葉と共に俺はカーレに掌を向ける(この動作に特に意味はない)。
―神聖魔法『ヒール』
キラキラとした光がカーレを包み、HPを回復させる。
礼と言ったが、これも実験だ。回復魔法の回復量計算はINTとMINの二つのステータスが作用する。詳しい計算式までは知らないが、素の状態でもゲーム時ならHP2000ほどの回復量はあったはずだ。
今回の実験ではヒールの回復がどこまで作用するのかを確認する意味がある。単にHPのみの回復になるのか、それとも回復量に応じて欠損した部分の再生まで行われるのか。それとももっと他の反応があるのか。
注視していると、体を光に包まれたカーレに変化が起こってるのがわかった。俺が切り落とした手足の付け根から光の塊が伸び、手足を形作っていく。そこからはあっという間で、徐々に光が薄れ、現れたのは完全に元通りになったカーレの裸身だった。
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