第二十話◇身体と感情
(* ̄∇ ̄)「インナーマッスルは簡単に鍛えられないの?」
簡単に鍛える方法があれば、スポーツは少し変わるのかもしれない。プロの現役最高齢が伸びるかもしれない。
インナーマッスルは意識して鍛えるのが難しい。
身体の中の筋肉の手がかりとして見つけやすいのが呼吸になる。
息を吸う、息を止める、息を吐く、この動作を人は意識的にコントロールできる。これは呼吸に関わる呼吸筋は人が意識して操作できるから。
(* ̄∇ ̄)「呼吸筋って、聞いたこと無い」
呼吸を行う筋肉の総称。呼吸をするときに胸郭の拡大、収縮を行う筋肉のこと。
種類として、横隔膜、内肋間筋、外肋間筋、胸鎖乳突筋、前斜角筋、中斜角筋、後斜角筋、腹直筋、内腹斜筋、外腹斜筋、腹横筋など。
この筋肉は意識して動かすことのできる筋肉。
呼吸法というのは呼吸に関わる筋肉を鍛える訓練法のこと。
この体内深くの筋肉を知覚して操作しよう、というのはヨガに肥田式強健術など。
肉体をコントロールすることで、精神や感情を安定させたりと制御しようとする訓練法などがある。
(* ̄∇ ̄)「ヨガファイアー、え? 呼吸法で感情コントロール? 精神操作?」
肥田式強健術では横隔膜を操作することで、不安や恐怖を感じない身体作りもできるという。
これは、不安や恐怖を感じないというよりは、不安や恐怖を感じたとき、身体が縮こまって動けないという状況をどうにかして動ける身体にしよう、というものか。逃げるにしろ身を守るにしろ、身体が動けないとどうにもならないから。
恐怖を感じたときに身体を引き締めて緊張するのは人間の防衛本能。筋肉を固くして衝撃に備えようというもの。
これについては拙作、魔刀師匠の第二章で触れているので、興味がある方は見て欲しい。
(* ̄∇ ̄)「何をちゃっかり宣伝してんのさ」
げふん、えーと。
感情から身体が緊張したり弛緩したりする。逆に身体の方から感情を操作することはある程度可能だ。
(* ̄∇ ̄)「できんの? そんなの?」
情報優先の時代、身体と精神を分けて考える思考が増えたが、身体と精神は繋がっていて分離できるものじゃ無い。
怒る、というのは攻撃的な感情で怒るとき人は戦闘体勢になる。このとき攻撃を受けたとき内臓にダメージがこないように、胴体の筋肉を締めようとする。
ここから逆に腹筋や肋骨周りの筋肉を、ぐにゃぐにゃに緩ませる。すると人は怒ることができなくなる。
(* ̄∇ ̄)「ほんとに? そんなんで怒り頂点なりー! って人が笑顔になれるの?」
試してみれば解る。怒るときに両肩をグルグル回して、脇の下からお腹の筋肉もふにゃふにゃに脱力させながら『コラー!』と、怒鳴ってみるといいい。力の抜けた声しか出せないから。
( ̄▽ ̄;)「両肩をグルグル回しながら、全身をクニャクニャ動かしながら、ザッケンナコラー、と言う人がいたら、気持ち悪いよ」
コノヤロー、というときは、人は首に胸に腹は緊張して固くなる。怒鳴るときは腹に力が入るものだ。
そして怒りやすい人は腹筋に肋骨周りの筋肉が固まりやすくなる。イライラしがちな人は、イライラしがちな身体になる。頭の固い人は胴体部も固くなりやすいわけだ。
また、これを踏まえた上で身体の方を弛緩させて、相手に敵意を気取られ無いようにするやり方もある。
(* ̄∇ ̄)「それは、気配を消すとか、そういうの?」
合気道の達人、塩田剛三は弟子に『合気道で一番強い技はなんですか?』と、聞かれたことに、
「それは自分を殺しに来た相手と友達になることさ」
と答えたという逸話がある。
( ̄▽ ̄;)「殺人鬼と友達になろうなんて、いーちゃんみたいなサイコパスかい」
サイコパスでは無く合気道の極意でもあるんだが。
解りやすく極端な例で言うと、例えば道で人とすれ違うことがあったとする。
(* ̄∇ ̄)「ふむふむ」
その人は、怖い顔で睨みつけてきて、全身にやる気をみなぎらせて、拳を握ってファイティングポーズしながら近づいてきたとしたら?
( ̄▽ ̄;)「振り返って逃げる。怖いよ!」
では、穏やかな笑顔で呑気に歩いてきた人が、『おや? 肩に蜘蛛が止まってますよ。取りましょうか?』と、手を伸ばしてきたら?
(* ̄∇ ̄)「うーん、普通に道を歩いていたら、そのまま肩の蜘蛛をとってもらうかも」
表情も態度も違うが、どちらも小僧を掴まえて投げ飛ばすのが目的だったとする。さて、油断するのはどっち?
( ̄▽ ̄;)「なんでいきなり投げ飛ばされるの? そりゃ、やる気まんまんと比べたら、敵意の無い相手には油断するよ」
北風と太陽みたいな話でもあるか。
合気道では相手の気持ちを逸らすことも技の内。力に力で対抗しない。柔よく剛を制す。
相手の虚を突く柔らかさ、というのはこういう面もあるわけだ。
相手が身構えるからこちらも身構える。
身構えない相手には油断する。
相撲の猫だまし、ボクシングのノーガード戦法。どちらも上手く決まれば相手のペースを崩すことができる。
相手の警戒していないところに打ち込むと有利になる、という点ではバドミントンもテニスも卓球も同じこと。
( ̄▽ ̄;)「虚を突くって、そういうことなの?」
もうひとつ、突然目の前にナイフを構えた男が現れたとする。
( ̄□ ̄;)「だから怖いよ! 逃げるよ!」
逃げる、身構える、どちらも相手のペースに乗せられてしまっているんだ。
ナイフを構えた男が『金を出せ』とか言う前にこちらから先手を取って、片手を上げてにこやかに、
「あ、久しぶりー、元気だった? この前はありがとねー」
と顔見知りの友人のように言うと相手は驚く。ポカンとしてる内にナイフを取り上げるとかする。
( ̄□ ̄;)「なにその心臓に毛が生えたような、しれっと友達の振り? ナイフを持ったアブナイ奴を相手に?」
護身術では相手がこう来たらこう返す、みたいな技を教えたりとかある。だが、その技を有効に使うには、相手のペースに乗らず、逆にこちらが主導権を取るようにすると効果的だ。
( ̄▽ ̄;)「えー、それでナイフを取り上げることができるの?」
相手をポカンとさせることができたら、顔に砂とか小銭を投げつけて逃げるとか、膝頭を踏み蹴るとか、バッグを振り回して鼻っ柱に叩きつけるとか、いろいろあるだろ。
様子を見るのも大事だが、怯えたまま身構えるだけでは相手の思う壺だ。
怯えて動けなくなると戦うことも逃げることも難しい。
肥田式強健術では横隔膜を下げることで、恐怖で固まるところを緩めて動けるようにする。身体の方から感情を操作して、戦闘に適した精神状態を作ろうというもの。
ただ、呼吸法などはメンタルに影響が出るので、信頼できる指導者の指導のもとで行って欲しい。
(* ̄∇ ̄)「殺しに来た相手を友達っていうメンタルはアブナイよね」
ボールは友達、という言葉もある。相手の懐に入って投げる、または相手を取り押さえるとき、相手を敵だと思うと身構えてしまう。
相手を友達のように、気楽に肩を組むように、身構えずにフッと相手の間合いに力まずに入る。これができたら相手の襟首や袖を掴むのもやりやすくなる。
( ̄▽ ̄;)「友達って、ナンダ?」
さて、話を戻してインナーマッスルに。
意識して鍛えることは難しいが、歩くときに注意することで腸腰筋をちょっとは使えるやり方を。
先ずは歩くときに膝を伸ばさない。そして足音を立てないように歩く。
(* ̄∇ ̄)「足音立てないの? 忍び歩き?」
歩くときに足音が大きい人は、歩くときに歩くのに必要以上の力を使っている。
手で拍手するとき強く叩くと大きな音が出るが、続けていると手が痛くなる。
足首や膝の関節を労るには、足音を立てないように歩くのがいい。
かかとを強く地面に叩きつけないように、爪先で地面を蹴らないようにそっと歩く。
やや内股にし、膝から下の足の力を抜く。
腰骨の中から足を吊り上げるように足を使う。
前に進むときに頭の高さが上下動しないように、目線の高さが一定のまま水平に移動するように。
肋骨の一番下の骨で地面を踏むような感じで。
手を前後に振らないようにする。
重心の移動は前に進むときに、誰かが自分の背中を押しているようなイメージで。
( ̄▽ ̄;)「……端から見ると、変な歩き方」
それは仕方無い。
私は昔から足音を立てないように歩くのがクセというか、たまに人に驚かれたりする。
どこまで気配を消して歩けるかと野良猫相手に試してたり。
塀の上で寝ている野良猫に、気づかれずに何処まで接近できるかと練習したり。
( ̄▽ ̄;)「オッチャン、なにやってんの」
かなり近づけるようになり、塀の上の猫が私に気づいて振り向いた。猫はそこまで近くに私が来ていたとは思わなかったようだ。
その野良猫は驚いたあまり塀の上から変なジャンプの仕方をして、塀の向こうに転がり落ちて行った。
足音を消した歩き方にはけっこう自信がある。
(* ̄∇ ̄)「そのスキルどこで使うの? 犯罪以外に使えなさそうだけど」
……昔、舞台で忍者軍団の一人をやったとき、私一人だけが着地したときに音がしない。一人だけ本物が混じってる、と笑い話のネタにはなった。
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