第十六話◇女武者、女侍
侍といえば男なんだが、女の侍というのも数は少ないがいる。
(* ̄∇ ̄)「今は戦国武将も武芸者も、女の子になった作品がけっこうあるよね。三国志とかも、ゲームとかエライことに」
TSのフィクションでは無くてだ。
日本の女武者で最も有名なのが巴御前だろう。
木曽義仲の愛妾で、義仲軍の一隊の大将。愛と忠義に生きた女武者。
平家十万の大軍を一夜で壊滅させた倶利伽羅峠の戦いで活躍。平家物語の中で、『巴は色白く髪長く、容顔まことに優れたり。強弓精兵、一人当千の
(* ̄∇ ̄)「薙刀持ってるイメージがあるね」
実は巴御前が薙刀を振るった、という史実は見つかっていない。
これは江戸時代の文楽や歌舞伎で、描かれた巴御前のイメージというものらしい。
薙刀には、形に違いがあり、男薙刀と女薙刀がある。
男薙刀は、刃の部分が長く重く、先が女薙刀に比べて細く、反りもさほど深くないのが特徴。太刀の柄を長くした長巻という武器があるが、この長巻のことを男薙刀とも呼ぶ。
女薙刀は江戸時代に女性用にと作られたもの。刃が短く、幅が広く反りがある。女性の体格、筋力に合わせて作られたこの女薙刀を、巴形とも呼ぶ。
(* ̄∇ ̄)「女性用の薙刀の形が巴型。武器の形の名前になるくらい有名な女武者なんだね」
この巴御前、平家の武者の首を素手でねじ切ったとも伝わる。
( ̄□ ̄;)「怖いよ! 怪物だよ!」
能の巴では、巴御前が敵の首をねじ切るシーンがある。馬に乗ったまま敵の騎馬兵の首を兜ごとねじ切った、とも語られる。
そして、倶利伽羅峠の戦いで活躍した女武者はもう一人いる。
木曽義仲に仕えた女武者で巴御前のライバル的存在。
十五歳で大病を患い病がちになったが、常に木曽義仲の側で各地を転戦したという。
一説によると、愛する木曽義仲の力になろうと、人外の者と契約し、命と引き換えに巴御前に匹敵する力を得たという。
(* ̄∇ ̄)「力が欲しいか? って、男の為にアーム〇と契約でもしたの?」
その力で倶利伽羅峠の戦いで大暴れ、巴御前を越える武力を見せたが、その戦いの中で力を失い、戦死したという。
こちらも平家の武者の首をヘッドロックでねじ切ったとか。
( ̄▽ ̄;)「木曽の女武者はバケモノか?」
では木曽以外の女武者、
板額御前は鎌倉幕府の事跡を記した歴史書とされる吾妻鏡に出てくる女武者。平安時代末期から鎌倉時代初期にかけて活躍した。
越後鳥坂城にて鎌倉幕府の軍勢を、板額御前は弓で足止めしたという。
強弓を持たせたら百発百中。当たれば必殺。
鎌倉幕府の大軍が、板額御前の強弓を恐れて動きを止めた。
(* ̄∇ ̄)「弓か、アーチャーか」
結局、板額御前が強くとも、鎌倉幕府軍が多すぎて、多勢に無勢。板額御前は足を射られて捕まってしまう。
板額御前は死罪か流刑かと覚悟するのだが、花のように美しいという板額御前を見た幕府の家人、浅利与一義成が一言。
「是非とも妻として迎えたい」と申し出る。そして結婚。
(* ̄∇ ̄)「弓使いで敵も惚れてメロメロになる長身美女かー、カッコイイ」
この板額御前と巴御前と静御前で日本三大御前。
ただ、巴御前の話はこの板額御前の話をもとにして作られたのではないか、というもの。
能や歌舞伎の巴御前は、吾妻鏡などの記録書に残された、板額御前をモデルに造り出されたという説がある。
他にも、故郷を守る為に水軍を率いて戦った瀬戸内海の女武将、大祝鶴姫。
江戸で道場を構え剣を教え、武芸指南役にもなった女剣術家、異装の達人、佐々木累。
幕末から明治、男装して新徴組に入り、新政府軍と戦った男装の女剣士、中沢琴。
十四歳で北辰一刀流小太刀免許皆伝。千葉道場の鬼小町、千葉さな子。
新選組をも恐れさせたといわれる剣豪、渡辺昇がそのあまりの薙刀さばきに圧倒され、試合を途中放棄した。百を越える勝負で敗北はたった一度の薙刀無双、園部秀雄。
(* ̄∇ ̄)「女侍って、けっこういる?」
武士という男社会で、歴史に名を残す女の侍は少ないが、皆無では無い。
というのも江戸時代には別式女と呼ばれる女武芸者がいた。
男子禁制の場所での警備、女性の要人警護など、腕の立つ女剣客の働く場かあった。
(* ̄∇ ̄)「昔の女SPか」
剣の腕前のほかに礼儀作法に教養にも秀で、女中としても優秀な別式女。剣術家の娘、道場の娘など、剣の腕に自負のある女性が働く場があった。
侍といえば男ばかりの男社会ではあるが、そこに活躍する女もいた。
これは『元禄御畳奉行の日記』の中より。
西暦1700年前後のとある夫婦の話。
ある侍が妾をもらった。そうしたら妻の機嫌が悪くなりご飯を作ってくれなくなった。
(* ̄∇ ̄)「お、不倫だ、浮気だ、愛人だ」
当時は一夫多妻。正確には一夫一妻多妾制度なんだが。
この侍の男、妾の方とも何かやらかして、妾も機嫌が悪くなってご飯を作ってくれなくなった。
(* ̄∇ ̄)「二股男がどんなざまあに? メシウマ展開おねがいします」
この男は妻も妾もご飯を作ってくれず、世を儚み、侍らしく切腹して死んだ。
( ̄□ ̄;)「ハラキリ? いや、そこまでしなくても?」
当時の女がけっこう強かったという話。
だいたい日本の男尊女卑が酷くなったのは、明治維新以降、西洋の思想を取り入れて、明治31年に一夫一婦制が確立されてからだ。
(* ̄∇ ̄)「え? そうなの? でも江戸時代って不倫とか、重罪じゃなかった?」
江戸市中法度によると、既婚女性の不倫は不義密通という重罪。発覚すれば相手の男性ともども斬首。
ところが、実際にはよほどのことがない限り告発されるようなことはなく、相手側の男性が女性の夫に示談金を支払って内々に処理、というのが普通だったようだ。
というのも昔の日本の男女の性愛は、現代とは比べ物にならないくらい自由。夫が妾を持つなら妻も浮気してもいい、という感じ。
武家の場合、夫が留守にしている参勤交代の間は、妻にとっては不倫の季節、ラブアフェアーなわけだ。
( ̄▽ ̄;)「旦那が単身赴任してる間のフリーダムな奥さんかい」
ポルトガルのカトリック司祭、宣教師のルイス・フロイスの書いた日本史にはこうある。
「ヨーロッパでは未婚の女性の栄誉と貴さは貞操にあり、また、その純潔が犯されない貞潔さにある」
「日本の女性は、処女の純潔を少しも重んじない。それを欠いて名誉も失わなければ結婚も出来る」
「我々は、妻を離別することはそれが罪悪であることはともかく、最大の不名誉である。日本では望みのままに幾度でも離別する。そして女性たちは、それによって名誉も結婚する資格も失わない。結婚もできる。日本ではしばしば夫を離別する」
「ヨーロッパでは、妻は夫の許可なしに家から外出しない。日本の婦人は夫に知らさず自由に行きたいところに行く」
「日本では娘たちは両親にことわりもしないで、一日でも幾日でも、ひとりで好きな所へ出かける」
「我々は、夫婦の間で財産は共有である。日本では各々が自分の分け前を所有しており、時々妻が高利で夫に貸し付けている」
かつてのキリスト教的男性優位社会の宣教師から見た日本の男女。
フリーセックスな日本の性の乱れに心配されてしまっている。
ヨーロッパ風キリスト教的男性優位思想が日本に広まったのは、明治維新後の文明開化からだ。
( ̄▽ ̄;)「男が妾を持つなら、女が不倫しても男女平等ってこと? 一夫多妻って、男性優位社会じゃ無いの?」
かつての日本の村社会では、夫婦で暮らしていても、実質は多夫多妻制度だったようだ。
( ̄□ ̄;)「多夫多妻ってなんだよ! おおらか過ぎるよ!」
現代人の感覚で言ってもしょうがない。
戦の多い時代、男は戦いに出る。そして戦で男が死ねば、男が少なくなり男女の比率が変わる。
戦で夫を亡くす妻もいるわけだ。これで一夫一妻に拘ると未婚の女性が増えてしまう。
戦って死ぬ男が多い時代には、一夫多妻制度が社会にとって都合がいい。平和な時代に財産分与で揉めないようにするには、一夫一妻制度が都合がいい。
だいたい日本が一夫一妻になったのはここ百年の話。それまでは一夫一妻多妾、または、多夫多妻だ。
今の我々の感じる普通、当然というのは今の時代にしか通用しないものだ。
( ̄▽ ̄;)「それはそうかもしれないけれど、ジェンダーフリーにも程がある」
下手をすると江戸時代の方が、現代よりもセクハラは少ないかもしれない。
明治以前と明治以降では、日本人の思想も考え方、感じ方も大きく違うということ。
女剣士でも腕が立ち男装して活躍したりなど、受け入れていたようだし。
(* ̄∇ ̄)「女侍で免許皆伝もいたわけだから、親が剣客家だと娘も鍛えられてたみたいだし」
現代日本でも、今は事実婚というのがある。
貧富の差が開けば法律上は一夫一妻制度でも、年収の高い男を複数の女でシェアする、内実は一夫一妻多妾制が復活するかもしれない。
む? なんでこんな話になった?
(* ̄∇ ̄)「昔の日本には女武者も女侍もいたって話」
男の首をねじ切る勇猛な女武者というのもいて、片や、奥さんがご飯を作ってくれないことを気に病んで切腹する侍もいたわけだ。
剣道は体格が良く力がある方が有利だが、剣術は戦場で身を守る為の護身術。
枯れ木のような老人が達人技で若武者をあしらう、というのも歳で筋肉が衰えても身を守る技がある、というのが剣術の目的。
個人的な感想だが、護身術に役立てるという点では、剣術とは男性より女性に向いているのではないか?
(* ̄∇ ̄)「なんか、無理矢理まとめたな」
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