第二話◇剣道とはなんだ?


 剣道とは?


(* ̄∇ ̄)「臭そう、で、痛そう」


 まぁ、防具は洗いにくいし、清潔にしてないと蒸れてカビが生えたりするし、汗を吸ってヌメヌメする小手は、気が遠くなるようなエライ臭いになったりする。

 某ゲームにおいて、にぎりの臭い竹刀、ヌメヌメする小手、汗臭い胴、とかネタ装備に使われたりもする。

 そして、竹刀が防具の無いところ、わきの下とかに当たるとかなり痛い。後輩をいたぶるのが好きな先輩は、わざと防具の無いところを竹刀で叩いて喜んだりする。


( ̄▽ ̄;)「お、おおう、臭くて痛いは否定されないのか」


 剣道がどういうものかは、剣道経験者以外には解りにくい。何より剣道経験者に聞いても答えは曖昧だ。これは後で説明するが、ここでウィキペディアを見れば解るようなものを書いても面白くは無い。


 剣道の試合を見て疑問に感じるところを書いていこう。


(* ̄∇ ̄)「試合開始と同時にどっちの選手も、お猿が叫ぶような声を上げるのはなに?」


 気合い、かな? 猿叫えんきょうと書くと示現流っぽいが、選手が大声を出す理由のひとつとして、剣道の試合では、


『有効打突(一本)とは

充実した気勢、適正な姿勢をもって、竹刀の打突部(弦の反対側の物打ちを中心とした刃部)で打突部位を刃筋正しく打突し、残心あるもの』

 

 これが決まって一本になるわけで、充実した気勢というのがこの掛け声になる。


(* ̄∇ ̄)「睨みあって、キョエー、キャー、エアー、ヒャー、って叫んでるよ? うるさくない?」


 まぁ、これもある意味、伝統か?

 この辺り何故か? と剣道経験者に聞いても、そういうものだから、とか、剣道だから、とか、伝統だから、という答えが返ってくることが多く、説明できる人はあまりいない。

 これは剣道の歴史に関わってくるんだ。

 剣道のもとになったもので撃剣興行というのがある。


(* ̄∇ ̄)「撃剣興業って?」


 時は明治、明治維新の廃刀令で食い扶持を無くした侍が生活に困っていたころ。

 職を無くした侍が剣術の試合を見世物として行った興行、それが明治初期に始まった撃剣興業だ。

 侍の戦いを見世物にして木戸銭を得る。この興業がヒットして見に来る客も増えた。


 剣道というのはこの撃剣興業の名残がある。

 テレビ中継の無い時代、侍の戦いを見世物にするのに、離れた見物客にも戦ってる様子をアピールするために大声を出すんだ。

 剣道で打突するときに、メーン、とか、ドー、とか大きな声で叫ぶのも、離れた見物客にどっちの選手が何をしてるかを、分かりやすく教える為のものなんだ。


(* ̄∇ ̄)「見物客アピール? そっか、明治初期の見世物に、テレビ中継もマイクもスピーカーも無いか」


 つまりは剣道の試合で大声で叫ぶ、選手が打つ部位を大きな声で宣言するのは、撃剣興業というショービジネスの名残を、伝統として伝えているからなんだ。


(* ̄∇ ̄)「一対一の対決なら、相手に攻撃する部位を声に出して言うのもどうかと思うけど、それは見ているお客さんの為なのか」


 実戦というなら相手を騙すのに、面と叫んでおいて胴を打つのもアリだけど、剣道の試合ではそれでは一本にはならない。審判が旗を上げてくれない。


(* ̄∇ ̄)「剣道の掛け声は、お客さんへのアピールと審判へのアピールの為なのか。にしても、すっごい声」


 もうひとつの理由として、現代剣道は軍隊の訓練の変形でもあるから、掛け声は大きい。

 こういうところで日本に憧れを抱く外国人が、実際に剣道を見て戸惑うところでもある。


(* ̄∇ ̄)「なんで?」


 和の魅力というか、日本的美学というのは禅に通じるものだったりする。黙によろしく喧によろしからず、というのが禅だが、時代劇で言うと、殺陣で主役がギャアギャア喚きながら敵を切る、というのはあんまり無い。座頭市なんて斬り合いが始まってから終わるまで無言だったりするだろ。


(* ̄∇ ̄)「ル〇ンの石川〇〇門もセリフ少ないよね」

 

 そういうのが格好いいわけだ。わびさび、和の心、というのに期待してたり憧れたりする人から見て、やたらとギャアギャアやかましい剣道の練習風景は、幻滅ものだったりする。


(* ̄∇ ̄)「まぁ、禅とか? 茶道とか? は、静かなところでやってるか」


 静寂の中で、鹿威しがコーンと鳴り響くようなのを期待して剣道を見ると、あれ? となるらしい。


(* ̄∇ ̄)「試合で打ち合った選手がメッチャ近い距離で睨みあってるのは?」


 鍔迫り合いだ。この剣道の鍔迫り合いは竹刀だからできること。真剣でこの鍔迫り合いはできない。


(* ̄∇ ̄)「あぁ、オッチャンの言いたい剣道と剣術の違いって奴?」


 この鍔迫り合いを互いに防具無しで、真剣でやってみるとどうなるか。刀は刃物で切れるんだぞ。それを互いにガシガシと押しつけ合うようなことをしたら、頬に肩がザクザクに切れるだろ。


( ̄▽ ̄;)「あ、うん。血塗れになりそうだ。あれは竹刀が首にも当たって無い?」


 試合では鍔迫り合いで相手の肩に竹刀を置いたりとかある。これが真剣で防具無しなら、首の動脈が切れそうだ。

 真剣での鍔迫り合いだと、相手の刀が自分の身に届かないように、少し手を伸ばして刀から身を離す。そして刀をガチャガチャとは動かさない。

 鍔迫り合いから斬られて死にたいので無ければ、慎重になるものだ。


 剣道の先生の中には、竹刀を刀だと思え、という指導をする人もいるが、刀でこういう鍔迫り合いはできない。というかしたくないだろう。


(* ̄∇ ̄)「でも時代劇で互いに距離の近い鍔迫り合いとか、あるよね?」


 それは刀と戦う二人の顔を画面に収めたいとか、そういう演出上の嘘だったりする。

 

 剣道の試合では竹刀を使う。そして竹刀を使うことを前提とした競技として洗練されることで、真剣での動きからは遠く離れてしまった。

 そこが剣道と剣術の大きな違いだ。

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