第五話◇剣道の足さばき、刀から竹刀へ
(* ̄∇ ̄)「移動、というか、剣道のあの足の動きは何?」
剣道独特の足さばきで、左足が右足の前に出てはいけない、という暗黙の了解がある。
(* ̄∇ ̄)「なんで?」
暗黙の了解なので、これは剣道経験者に聞いても解らない。そういうものだから、ということになる。
ちなみに剣道形、昇段試験の為に必要とされている日本剣道形では、左足が前になる構えがある。脇構え、八相の構え、共に左足が前になる剣の構え方だが、これが剣道の試合で使われることはほとんど無い。
(* ̄∇ ̄)「?剣道の形にはあるけど、剣道の試合には無い?」
その通り。これは剣道の竹刀、成人男性用の竹刀が500グラム前後であるのに対し、日本刀の重量は900グラムから1500グラム。
竹刀に比べると刀は2倍から3倍の重量がある。
剣道は剣術から派生したもので、竹刀で行うことを前提とした競技、として洗練された。竹刀を当てる為の速度を競い、その中で手首のスナップを使う竹刀の動かし方へと発展する。
この手首のスナップで振る竹刀の振り方で、竹刀より重い刀を振ると手首を痛めてしまう。剣道の竹刀の振り方で日本刀を振るのは止めた方がいい。
脇構えも八相の構えも、日本刀に置いては有効であり実戦的な構えなのだが、竹刀での剣道の試合では有効では無いとされる。
その為に日本剣道形の中には残るが、剣道の試合では使われない構え方と形骸化している。
(* ̄∇ ̄)「過去の名残、それを伝統として伝えているんだね」
畳のサイズは織田信長が決めた。
(* ̄∇ ̄)「オッチャン、いきなり何を言い出す? 畳?」
そう、畳。いつもは敷いて使い、いざというときはひっくり返して盾にする。当時の火縄銃の弾を通さない厚み、持ち運べる大きさで、盾にして身を隠せる大きさ。
戦場で使うのに都合のいい大きさに、畳一畳の大きさを織田信長が決めた訳だ。
( ̄▽ ̄;)「畳の並ぶ和室が、いきなり物騒に見えてきた……」
こういうのを、日本好きな外国人を、和室に迎えるときに話してやると喜ぶぞ。
で、一度そうして基準が決まると、なかなか変えられないものだったりする。今の畳の厚みでは、現代の銃弾を止められないが。畳の厚みとか長さとか幅は、一度決められてからあまり変化してなかったりする。時代が変わったならば、畳のサイズも変わってもいいんじゃないか?
(* ̄∇ ̄)「起きて半畳、寝て一畳、と言うけれど、昔より平均身長が伸びた日本人は、寝て一畳から足がはみ出ちゃう人もいるよね」
ところがそれがなかなか変えられない。畳のサイズの話は、一度基準を決めてそれが広まると、その後なかなか変化しないという一例だ。
剣道もまた同じ。
竹刀で行うことを基準とした為に、刀を使うことが忘れ去られてしまった。
かつての竹刀稽古では、竹刀は刀の代用品であった。竹刀での稽古の先に、実戦として真剣を使うことを想定していた。
しかし、剣道は刀の代用品である竹刀で、優劣を競う競技へと変化した。
そこでは稽古も実戦も竹刀で行う。もはや真剣は必要無い。竹刀は刀の代用品ではなくなり、競技の為の道具へと変わった。
(* ̄∇ ̄)「1キログラムの刀を使う殺し合いから、500グラムの竹刀で競う競技へと、時代とともに変化したんだね」
それならそれでいい。競技に徹するのなら。
真剣の実用性を切り捨てて、竹刀で行うと決めたスポーツが剣道の試合。
しかし、そこで昔の剣術の名残を残そうとしたのが日本剣道形。
この剣道形の昔の剣術の動き方、構え方を試合でも練習でも無用としているのに、昇段試験のときだけ引っ張り出して来る。
竹刀剣道では実用性皆無の動作を、剣道の伝統と言い、なにやら大事なものとして扱う。でも剣道形の動きも、構えも、剣道の試合では使わない。
(* ̄∇ ̄)「ええと? つまり?」
こういうところが、剣道がスポーツか武道かと曖昧なところでもある。
剣道をやっている人は、脇構えも八相の構えも、昇段試験には必要だけど、実際の竹刀での試合には役に立たないと思っている。
かつての古人の剣術を学ぶ気は無いが、だけど剣道は日本の伝統文化だと言う。
ダブルスタンダードと言うか、都合の良いところで競技と言ったり伝統と言ったりする。スポーツだったり武道だったりする。この御都合主義が剣道の、実に剣道らしいところである。
(* ̄∇ ̄)「ちょいと、オッチャン?」
剣道における精神修養とは、日本剣道形を建前では大事だと言い、腹の中では役に立たないと言う。
こういった腹芸を使いこなし、裏表のある人間を育てるのに剣道は向いている。
本音と建前を使い分ける日本人らしい日本人を育て、日本の社会で生きていく為の生活の知恵。自分でも役に立たないと思っている物を、素晴らしいと口にする処世術を身につけるのに、剣道とは最適だろう。
( ̄▽ ̄;)「どこにケンカ売ってんの。剣道好きな人からメッチャ文句が来そう……」
剣道形の動き方と剣道の試合の動き方、この二つが現代ではまったく繋がって無いんだよ。
実はこの剣として有りか無しか、という部分が、剣道の試合で審判が判断する部分に繋がる。
剣道の世界大会で選手が審判にクレームをつけるのは、選手と審判でこの基準が違うところにもある。当たっただけでは一本にならない剣道の試合。選手から見て、ルールだけでは読み取れない部分で判定されて、納得いかないとなったりする。
剣道の技術とは何か。竹刀を扱い試合に勝つためのものなのか。日本剣道形にある真剣を扱う動作を修練する為のものか。
両方大事と言うなら、両方ともきっちり練習に取り入れて欲しい。
現状では、形稽古は軽視され段位認定の試験のためだけのものになっている。
追記
左足が右足の前に出ても良いとする、常足剣道というのもあるが、あまり広まってはいないようだ。
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