第二十二話◇最後に
さて、剣道と剣術の違いの説明からいろいろと脱線もしてきたこのエッセイ。今回で閉めとしよう。
(* ̄∇ ̄)「あらかた言いたいこと言って、スッキリした?」
伝統を受け継ぐ、と言いながらも変質し、しかし、やっている人達にその自覚が無い。時代と共に言葉が変質することにも似ているが、そこには何を大事にして残すべきか、その部分が曖昧になってしまうようだ。
日本の場合、明治維新での西洋化、二度の世界大戦、GHQの政策とその変化は激しいものだった。
(* ̄∇ ̄)「歴史にもしもは無いけれど、今ではチョンマゲも着物も見かけなくなったしね」
腰に刀を掃いて町を歩く人もいない。
( ̄▽ ̄;)「銃砲刀剣類所持等取締法……」
刀や薙刀はともかくとして、着物を着る人も少なくなり、帯を自分で締めるのもできない日本人が多くなった。
当の日本人が日本の文化を忘れつつある。
一方で昔からあるものを大切にしてきた島根県が、古き良き日本を感じられる観光地として観光客が増えている。
(* ̄∇ ̄)「出雲大社に石見銀山遺跡とか」
漫画の『かみあり』でも紹介されていたが、今も
(* ̄∇ ̄)「神様の子孫? ほんとに? 何やってんの?」
島根県で神主と医者をやっておられるという。倉にはヤマタノオロチの首の骨が在るそうだ。
独自の風土と建築を残した島根県が、海外からの観光客が増加中。
長い鎖国という歴史で育まれた日本独自の文化。当の日本人が忘れつつあるものが、海外から注目されるというのも皮肉な話だろうか。
海外からの観光客を増やそうとカジノ法案だとか、日本にカジノ建築とかいう話もあるが、外国から日本にくる旅行客はギャンブルを求めているのだろうか?
( ̄▽ ̄;)「そこは政治家と業界関係者の問題じゃない?」
日本でカジノを経営するのであれば、日本らしく、カジノでは丁半賭博とかチンチロリンとかやればいいのではないか。
それなのにオシャレにルーレットにポーカーか? 本格的にギャンブルがしたかったら、ラスベガスかマカオにでも行けばいいのに。
(* ̄∇ ̄)「いっそのこと日本らしく、漫画のワ〇ピースの海賊酒場とか再現して、そこでギャンブルとかしたらウケるかもー」
何が伝統なのか、どの部分を形を変えずに後世に残さねばならないのか。伝統と文化を掲げるならばちゃんと歴史を学ぶことをお薦めする。
最後に剣道の今後の問題点を二つ上げる。
ひとつは審判の不足。
高段者で経験豊富な者が審判をするわけだが、高齢化による老眼でちゃんと見えてるのかどうか怪しい審判がいる。
また、世界大会など審判ができる人が少ない。
剣道では審判が試合の絶対的な権力を持っており、他のスポーツと違い審判がマイクで観客に説明したりはしない。国内の大会では選手が審判に抗議することもまず無い。
審判の判定が絶対である、というもとに剣道の審判が行われている。
しかし国際大会などでは、剣道独自の審判システムを知らない選手が、判定に納得いかないと審判に抗議することがある。
(* ̄∇ ̄)「ビデオカメラでスロー再生とか。それなら選手も納得するんじゃない?」
剣道の試合にビデオ判定は無い。また、打突部位に当たっても、残心が無いので無効とか、打突部位に当たって無くとも、気合いと姿勢から有効となることもあるのが剣道の試合だ。
当たる当たらないだけでは無い。ここが世界大会で海外選手からよく解らない、と言われる部分だ。
(* ̄∇ ̄)「そういうところも日頃の稽古から教えていかなきゃいけないところ?」
剣道をしている人達全ての共通認識としてあれば問題無い。その為には低段位の若い審判が増えるようにした方がいい。
中学生、高校生から剣道の練習の中で審判の練習もした方が良かろう。
また、この審判の問題から世界大会では審判が日本贔屓をしている、とも言われる。
国際的な世界大会でこれは問題だろう。
剣道のルールを変えたく無いのであれば、いっそのこと世界大会は無くしてしまうのもひとつの方法だ。
剣道の審判とは日本贔屓である、と厚顔無恥に言い張るつもりが無ければ、世界大会における審判の在り方を参加選手に教える勉強会なども必要になるのではないだろうか。
いわゆるスポーツから見れば、自称武道の剣道の試合のルールはかなり特殊だ。そして参加選手がそれを理解していないから、審判に抗議することになる。
そして抗議された審判も選手を納得させられるだけの言葉を持っていない。
オリンピック競技にはしたくない、と言いながら世界大会をする、というところで国際化における問題が出る。
これで説明もルール変更もめんどくさい、と言うなら鎖国して日本国内だけでやればよろしい。
( ̄▽ ̄;)「外国での剣道選手も増えてるから、鎖国は無理なんじゃ? 開国シテクダサイヨー」
もうひとつの問題点。全日本剣道連盟の不祥事と高齢化。
2017年、全日本剣道連盟で長年と続いていた不正が発覚した。
全日本剣道連盟は剣道、居合道、杖道の三部門を統括している。不正があったのは居合道だ。
最高位の八段および、それにつく称号である『範士』の昇段審査で金銭の授受があった。
全日本剣道連盟は居合道部門で金銭授受の不正が常態化していたことについて、事実関係を認めている。
審査員などとパイプがある仲介役に受審予定者が金銭を預け、仲介役が審査員らに実際に配る手法が続いていた。全剣連は内部調査で三十人ほどの審査員経験者らに聞き取りを実施し、2018年に一定の処分を下した、としている。
ただ、大半の関係者が『反省している』などとして処分が猶予されているのが実情。
『懲罰ではなく今後に向けた再発防止が大事だ』
と、言っている。
(* ̄∇ ̄)「うん、反省して再犯防止、大事なこと」
『正当化するつもりはないが、茶道や華道など芸事の世界ではこうした行いはよくある』
とも主張している。
( ̄▽ ̄;)「ほんとにちゃんと反省した?」
茶道や華道に段位はないが、流派によって技能の等級を表わす『許状』があって、その取得のためには付け届けが必要だといわれる。
日本舞踊でも、技能が上達した証しである名取、弟子をとって指導できる師範、どちらも家元や師匠に百万円単位の大金を収めなければならないという慣例がある。
居合道は型で審査する。評価には主観的な要素が入る余地があり、事情に詳しい関係者が仲介役となり、合格したい受審者から金銭を受け取って審査員に分配。
不正が発覚したのはひとりの受審者の告発がきっかけだが、その告発状によれば要求額は総額で六百五十万円。
Σ( ̄□ ̄;)「ろっ……、高いよ!」
これも慣習として続けられた伝統のひとつだ。
ここで居合道昇段試験の筆記問題をひとつ紹介しよう。
◇◇◇◇◇
■居合道修業の目的を述べよ。
居合道修業の目的は、居合を修練することによって心身を鍛錬し、人格の向上に努め、よって、国家社会に貢献し得る、立派な日本人となることである。すなわち、
(1) 居合を正しく学び、その技法を修業し、質実剛健の気風を養い、健康な体をつくること。
(2) 居合の本質をよく理解し、よき師・先輩について精神的教養を身に着け、よって人間形成に努めること。
◇◇◇◇◇
ついでに全日本剣道連盟が掲げる剣道の理念から。
◇◇◇◇◇
『礼法』
相手の人格を尊重し、心豊かな人間の育成のために、礼法を重んずる指導に努める。
剣道は、勝負の場においても『礼節を尊ぶ』ことを重視する。お互いを敬う心と形の礼法指導によって、節度ある生活態度を身につけ、『交剣知愛』の輪を広げていくことを指導の要点とする。
◇◇◇◇◇
全日本剣道連盟では、こういうご立派な看板を表で掲げておいて、裏では『居合道八段になりたかったら六百万円用意しろ』と、言っていたわけだ。
居合道も剣道も、上級者になるならこのように本音と建前の使い分けができないといけないらしい。
(* ̄∇ ̄)「強くなるのに課金しないとダメって、ソシャゲみたい」
ソシャゲのガチャに六百万円も突っ込む人は滅多にいないのではないだろうか。
2018年にはスポーツ団体の不祥事が相次いだ。
日本レスリング協会の強化本部長が、女子金メダリストへのパワハラで辞任。
バドミントンでは強豪実業団の元監督が女子選手の賞金の私的流用で告発。
アメリカン・フットボールでは日大選手が関学大との定期戦で危険な反則タックルを行い、指示した監督とコーチが懲戒処分。
日本ボクシング連盟の助成金不正使用疑惑で、会長と理事全員が辞任。
居合道では昇段審査を巡って不正な金銭授受の事実が判明。
体操では女子トップ選手への指導中の暴力行為で男性コーチが登録抹消処分に。
( ̄▽ ̄;)「何やってんの、スポーツ団体……」
健全なる肉体に健全なる精神が宿るといいなあ、と言ったのは古代ローマの詩人ユウェナリスだが、これは古代ローマも現代日本も変わらない。
(* ̄∇ ̄)「健全な精神は健全な肉体に宿る、じゃないの?」
それは誤訳。詩人ユウェナリスが、健康元気な人が誘惑に負けて悪さをするのを見て、肉体に何の問題も無い健康な人ほどおかしなことをする、と嘆いて書いたものだ。
話を戻して、スポーツ団体に見られる不祥事に共通するのは権力問題。ハラスメントなどは加害者と被害者の権力構造が背景にある。相手の逆らえない立場を利用して行われる。
また、日本ボクシング連盟で顕著に現れたのは、権力者による独裁政権が長く続くことで不正の温床となったことだ。
権力欲に飲まれた年寄りが長く居座り、世代交代が上手くできなければ、悪い慣習はいつまでも続き、やがて不正として発覚する。
(* ̄∇ ̄)「武道でもスポーツでも、団体になれば権力と派閥から逃れられないのかー」
次代を担う世代へと交代できれば良いが、これが難しい。内部で革命でも起きなければ、ズルズルと現状維持になるのが組織というものだ。
( ̄▽ ̄;)「いきなり革命って」
剣道をやっている若い世代の方は、剣道の歴史を深く学び、おかしなことをしてふんぞり返る老害を追い出せるようになって欲しいものだ。
全日本剣道連盟と剣道そのものが、白眼視されてもいい、というならそのままでもいいが。
剣道に限らずこの世代交代の問題は、今の日本の組織では、何処にでもある問題だろう。
理念と伝統を正しく残すには、と考える若手も少ない。これはそのように育てることのできなかった世代の責任でもある。
このエッセイでは剣道と剣術を例にとり、どのように変化したのかも語ってきたが、これで明治以前の人の身体の使い方など、興味を持ってもらえたら幸いである。
(* ̄∇ ̄)「お、まとめに入った。そういう意図だったの?」
温故知新、古い事柄を調べたり考えたりして、新たな道理を見い出し己のものとする。
興味が無ければ伝統の中身も歴史も知らずに、よく解らないが伝統だから素晴らしい、と拝むだけのものになる。
昨今、海外から居合の段位を取る為に日本に訪れる者、日本の古武術に興味を持ち訪ねる外国の方も増えた。
そんな中で、恥の文化と言われる日本人、その日本の剣道の団体が不正発覚だ。これが昔なら切腹ものだ。恥を知れ。
( ̄▽ ̄;)「まあ、団体も大きくなると、不正と献金も無しでやってるとこは少ないだろうし」
自分達で掲げた理念の看板くらいは、守るように努めるべきではないか? できないのであれば、理念を書き換えてはどうか。
(* ̄∇ ̄)「日本人全員がこの国の憲法を知ってる訳じゃ無いでしょ。知らなくても生きていけるし。そういう曖昧さも日本の文化なんでしょ?」
まぁ、確かにそういう一面もある。
だからと言って恥を晒して良しとは、美しくない、カッコ良くない。これは美学の問題だ。
(* ̄∇ ̄)「美学ときたか」
剣道に限らず、自分の打ち込むもの、自分の所属する団体は良く見られたいものじゃないか? やらかすだけやらかして、後は任せた、という輩をのさばらせると次の世代が悩むことになる。
伝統を勘違いして悪い慣習を続ける、温故知新ならぬ、うんこ恥心は速めに排除するか、再教育した方がよろしい。
世の中には武道を学ぶことで礼儀作法を学べると言う人がいる。日頃の稽古や在り方がその期待に応えられるかどうか、今一度見直して欲しいものだ。
ここまで目を通してくれた方は剣道経験者が多いのではないかと思う。
剣道をしている方には耳に痛いことも言ったが、このような視点で言う者は少ないので、このエッセイが刺激となれば幸いである。
居合を稽古すれば抜刀の鞘引きの腰の使いは柔術で応用できる。また柔術での体の崩しなど剣術に応用できる。
剣道で強くなりたい、という方は柔術や居合も稽古してみてはいかがだろうか。
もともとの剣術では武芸十八般、全て含めて剣術。それぞれが独立しているものでは無く、相互に関連して人の身体の使いを極めんとするものだ。
かつて剣道を作った偉人の言葉など、見て欲しい。
剣術が時代に即したものでは無く、これから喪われる時代の遺物だとしても。
サムライもニンジャも消えて無くなったりはしない。
ニンジャスレイヤー、刀剣乱舞、と形を変えて何度でも甦る。
そのもとになったものに興味を持ってもらえたなら幸いである。
(* ̄∇ ̄)「うん、素人でも3Dポリゴンのキャラの動きで、カッコいいとかカッコ悪いとか、言えるからね」
これももとになるのは、人の身体の動かし方がそこにあるからだ。きっかけは何処にでもある。そこから、自分の身体、というものを再発見して欲しい。
一生付き合うことになる大事な相棒なのだから。
これにてこのエッセイを終わる。
お読みいただきありがとうございました。
(* ̄∇ ̄)ノ「これ、ネタにしてくれたら嬉しいです。未来に遺せー、ニッポンのサムライ」
剣術と剣道は違う。刀と剣術についてのこだわりをちょっと聞いて 八重垣ケイシ @NOMAR
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