第十二話◇手裏剣
今回は手裏剣について。
(* ̄∇ ̄)「なんで手裏剣? ニンジャ?」
映画にマンガの影響で、手裏剣といえば忍者のイメージがついてしまった。
この手裏剣術も武術のひとつ。
手裏剣ができないと剣術家としてはダメダメ、という時代もある。
(* ̄∇ ̄)「飛び道具って卑怯なイメージがあるけれど」
実際に戦うときにも使えるが、他の使い方がある。手裏剣で山鳥などを狩猟するのに使える。
(* ̄∇ ̄)「狩猟? サムライが?」
この手裏剣術が下手だと獲物が取れない。山籠りで修行しようとしても、獲物が取れないと食べられるのは山菜とキノコしか無い。
山に籠り一人で修行、となれば食料を簡単に取れる方が修練に時間も使えるというもの。
(* ̄∇ ̄)「そっか、衣食住は必要だから」
手裏剣術が下手だと、お腹を空かせて山を下りたり、修行の旅を諦めたりする嵌めになったりする。
( ̄▽ ̄;)「お腹を空かせて諦めるサムライ、せ、せつない……」
というわけで手裏剣術。
手裏剣といえば先ほどの忍者イメージも合わせて、十字手裏剣を思い浮かべる人も多いだろう。
(* ̄∇ ̄)「刃が四枚出てて、クルクル回って飛んでいくアレ、スリケン」
刃の数は三枚から八枚といろいろある。星形で平たく、投げれば回りながら飛んでいく手裏剣は、車剣、または車手裏剣。
しかし、この車手裏剣は武術では主流では無い。
本来、手裏剣といえば釘のような短い剣。
宮本武蔵系統の短刀型、根岸流の太針型。何れも刃先は
(* ̄∇ ̄)「そうなの? スリケンといばクルクルシュババッて、回転しながら飛んでいくものじゃないの?」
区別するために忍者的な十字手裏剣を車手裏剣、もともと使われていた手裏剣を棒手裏剣と呼び分けようか。この二つの違いを説明していこう。
まず、映像的に見映えがするのは、車手裏剣。浅草でもキーホルダーになったりお土産になったりする。特徴的な形が実にオリエンタルジャパン、ニンジャー、な訳だ。
棒手裏剣のほうは太い釘、根本に糸などを巻いて重心調整されてるが、黒い太い釘にしか見えない。デザインがお土産キーホルダーにはなりにくい。
見た目の映える車手裏剣が、マンガや映画で使われることで、手裏剣といえば車手裏剣、のイメージが広まってしまったわけだ。
(* ̄∇ ̄)「デザインは重要だよね。それに手裏剣を実用してる人は見たこと無いし」
棒手裏剣が実用された実例は第二次世界大戦。
手榴弾を投げようとした敵兵の気配に気づいた日本兵が、咄嗟に手裏剣を投げ、手榴弾の投擲を阻止した。これは当時の新聞に乗り戦意高揚に使われた。
また第二次世界大戦末期では、女学生に手裏剣術を学校の授業で習わせていた。
(* ̄∇ ̄)「学校で手裏剣の授業? なにやってんの?」
当時の高等女学校や女子師範学校では、薙刀や弓道が体育の授業に組み込まれていた。で、薙刀や弓道の経験が無い、または素質が無いとされた女学生は、手裏剣練習を学ぶことに。
特に手裏剣は、戦争の敗色が濃厚になる末期、本土決戦でのゲリラ戦を想定し、槍や薙刀に代わり盛んに稽古されるようになった。
手裏剣の特徴は、距離を置いて戦えること。一人でも練習できること。これで腕力、体力が無くとも、女学生でも米兵と戦えるようになるだろう、と。
( ̄▽ ̄;)「おおう、一億総火の玉……」
本土決戦に備えて、手裏剣術の稽古に回された女学生達は、昼間は軍需工場で女子奉仕隊員として働き、余暇を利用して手裏剣の稽古に励んだという。この時の手裏剣は、鉄不足から、医療用のメスや鋏の他に、竹ベラや
( ̄▽ ̄;)「ムリだよ、勝てそうに無いよ。相手はライフルに戦車に爆撃機だよ」
第二次世界大戦末期の発想、というところか。
ただ、離れて戦える手裏剣術は護身にも使えるだろう。広いところがあれば一人で練習もできる。
実際に使えば過剰防衛となってしまうだろうか?
( ̄▽ ̄;)「いきなり手裏剣を投げられたら、ストーカーもビックリだよ」
話を戻そう。
手裏剣の距離は2メートルから5メートル。熟練者で10メートル越えするという。
ここで棒手裏剣と車手裏剣の違いに戻ろう。
車手裏剣は投げると、回転する遠心力を使い、刺さるまたは切るようにできている。
では、棒手裏剣はどう投げるのか?
(* ̄∇ ̄)「ダーツみたいにして投げるの?」
切っ先が上を向くようにして投げる。投擲中に4分の1回転して目標に刺さる。この直打法では、投げる、とは呼ばずに、打つ、と呼ぶ。
手首のスナップを効かせるとうまくいかない。そのため投げるという感覚よりも、打つという感覚に近いようだ。
また、刺さる距離が決まっているため、この距離の調整が難しい。
切っ先を下にして、4分の3回転させるのは回転打法。こちらは直打法より遠い距離を狙うのに良いらしい。
棒手裏剣を避けた相手の後ろの壁に、棒手裏剣が刺さる、という描写は演出上の嘘。相手が避けると切っ先が落ちて、その後ろの壁に刺さらない。
(* ̄∇ ̄)「あー、リアルはそうでも映像的には、カカカッ! と、壁とか木に刺さって欲しいかも」
遠心力を利用して投げる車手裏剣は、腕力があれば投げて刺さりやすい。回転する遠心力が助けてくれる。
一方、棒手裏剣は釘型で、貫通力は高いが習得する難易度が高い。
車手裏剣の方が簡単で、習熟すれば棒手裏剣の方が威力が高い。
(* ̄∇ ̄)「車手裏剣の方が簡単なんだ。なのに棒手裏剣が主流だったの?」
まず、重量。棒手裏剣は流派に依るが30グラムから120グラム。
比較して、ダーツの矢が約25グラム、硬式野球のボールが145グラム前後。
(* ̄∇ ̄)「ダーツより重くて、野球のボールより軽い」
車手裏剣の重量は200グラム前後。けっこう重い。これは重量と回転で威力を出すのと、刃が複数あるため。
そして車手裏剣は形状はカッコいいが、その分、嵩張る。そのため棒手裏剣に比べて持ち運べる数が少なくなる。
(* ̄∇ ̄)「そんなときの為に、アイテムボックス。インベントリ」
そんな便利なものは無い。
持ち運びが簡単で隠しやすいのが棒手裏剣。飛距離も車手裏剣より遠くまで飛ぶ。運動エネルギーが刃先一点に集中するので、貫通力がある。
その代わりに習熟難易度は車手裏剣より高い。
(* ̄∇ ̄)「実戦では棒手裏剣の勝ち。映像的な見映えでは車手裏剣の勝ち」
棒手裏剣は隠しやすく、髷の中に仕込むこともできた。
(* ̄∇ ̄)「なんとチョンマゲの中から手裏剣が?」
十五代将軍、徳川慶喜は手裏剣術を好み、朝晩欠かさず修練していたという。
手裏剣術は、侍から女学生、将軍といろんな人が嗜んでいた武術。忍者だけのものでは無いのだ。
(* ̄∇ ̄)「なるほど、でも現代で手裏剣を投げてる人は見たこと無いから」
これは私がオーストラリアにホームステイしていたときの話だが。
折り紙で十字手裏剣を作って投げてみたところ、現地の子供達に大人気だった。そして何枚も折り紙手裏剣を折る嵌めになった。
子供達は喜んで折り紙手裏剣を投げていたものだ。
(* ̄∇ ̄)「……オッチャンが間違ったニンジャをオーストラリアに広めちゃったの?」
う、ううむ、ちょっと反省。
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