第25話「そうだけど……そうじゃないよ……」

「小さい頃も、俺がお前のことをおぶって帰ることあったよなぁ」


 俺は真っ暗なお化け屋敷の中を歩きながら、背中に乗っている友李ゆりに話しかけた。


「友李、川とか行くとすぐ怪我してさ。寿志ひさしが大人を呼びに行ってくれて、俺はお前を担いで歩いて……なんか懐かしいよなぁ」


「そうだね……なんか色々変わっていっちゃうから、少し寂しくなってくるかも」


「おいおい、なに感傷かんしょうひたってんだよ。そういうのは三人のうち誰か死んだ時のためにとっておけ」


「フフ、そんなこと言って、ヒロくんが一番最初にいなくなったりして」


 友李は少しずつ元の調子に戻ってきているようだった。これなら大丈夫そうかな。


「ヒロくんは寂しくなったりしないの?」


「まぁ、しないこともないけど。そのぶん前に進めたような気がしていいじゃんか」


「そっか……私は、結構寂しいし、悲しいんだ。どんどんバラバラになって、離れていくような気がしてさぁ」


 そう言う友李の声は、いつもの強気なものではなく、弱々しくてか細い声だった。


「いつでも連絡取れるんだし、仕事するようになっても会えるだろ?」


「そうだけど……そうじゃないよ……」


 そうじゃないって、何が違うんだ?


-ピタッ


 そんなことを思っていた俺の頬に、急に何か暖かいものが当たるのを感じる。


「…………」


「……お前、何を?」


「いつものイタズラ……だよ?」


 当たっている……というか、俺の頬にくっつけられているのは、友李の頬だった。


「前にも言ったでしょ。こういうのを本気にしちゃダメだって。……だからこんなのは本気じゃない、から……」


 何を言ってるんだかよくわからないが、さっきからの話をまとめると、みんなはなばなれになるのが嫌ってことなんだろう。


 こんな時どんなことを言えばいいのかなんてよくわからん……。けど、幼馴染として声をかけてやることはできる。

 

「大丈夫だよ。俺も寿志もお前から離れていくわけじゃなくて、それぞれしたいことをしてるんだ。そんで、辛いことがあったりしたら相談とかし合ってさ」


「……うん」


 友李は小さく返事をした。まだダメか……。


「だから、まぁそうだな……これからもよろしくってことだ」


 俺は渾身こんしんの一言を放った。これなら安心してくれるはず。


「うん……!」


 今度の返事は少し明るく感じた。きっとこれで大丈夫。



「ということで、くっつくのやめてくれないか?」


 俺は遠慮することなく申し立てた。息してるだけですごいドキドキするし、乗り出す体勢になってるから、背中にすごい圧というか反発力というか……。


「お化け屋敷出るまではこのままがいい……お願い」


「どこからそんな甘えた声出てんだよ……。終わったらすぐやめろよ」


 こんなの普通の男子なら勘違いするだろうな……。俺たちの場合は幼馴染だから変に意識することないけど。


 ホントは友李の方が意識してたりして……って、こいつに限ってそれはないか。


 うぅん、これが男女の友情ってヤツなのかな?

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