第14話「なっ……あ、あんた……っ」

「さてさて。それじゃあ、これ解説してもらおうかな」


 そう言った友李ゆりは、俺の私物であるエロ本のページを適当にめくって見せてきた。


 なるほど……たしかに、こんなのを解説させられたら、はずかしめもいいところだ……。


 こいつが留学する前も似たようなことがあったなぁ……。たしか、寿志ひさしと一緒に、週刊少年誌に連載されているちょっとHな漫画を買って、それがバレたんだっけかな。


 あの時も『これの内容話してみて』って強要されて、二人で泣きかけてたっけ。


 だが今回は訳が違う。ガチなやつだ……!男子高校生といえど、さすがに口にするのをはばかってしまう。


 どうする? どうす…………いや、もう仕方ないか。見せてやるぜ、俺の本気ってやつを!


 覚悟を決めた俺は、友李の目を見据みすえて叫んだ。


「これは-と-が--で-を---して-してるんだよぉ!! なにがおかしい! 俺としては、生き物の本質と言ったっていいねぇっ!」


「なっ……あ、あんた……っ」


 やっぱりだ。今までの俺は、こういう尋問には無をてっして対処していたが、今回は違う。


 予想外の反応によってひるんだ友李の隙を、俺は見逃さない。


 ここからは俺のターンだ! 俺は友李の手元からエロ本を奪い取り、次のページをめくって突きつけた。


「逆に聞こう! これは一体なんだ! まさか、人にたずねておいて自分は答えられないなんて言わないよなぁ?」


「えぇっ……それ、は……」


 フン、予想通りだ。さすがにこんな反撃をしてくるとは思っていなかっただろう。


「さあ、言ってみろ!」


「だから……お、男の人と、女の人が……その……あの……」


 ハッハッハッ。今までの自分の罪を悔い改めるが良い!


 と、俺は達成感に浸っていたのだが……。


「も、もぉ許ひてくらさぃ……」


「あれ?」


 俺の前にいた悪魔は、涙ぐんだ瞳で俺を見つめ、弱々しい声で懇願こんがんしていた。


 もしかしてなんだけど……こいつ、自分が責められるのは苦手?


 そう思った俺は、確認のために友李の耳に息を吹きかけてみた。


「ひゃっ、ひゃん!」


 うーん、これは間違いないな。


「お前、人にあんだけやっといて、自分は超絶弱いじゃねえか」


「らってぇ……久しぶりに会うから、どうすればいいのかよく分からなくて……。いつもみたいに意地悪しちゃって……」


 普通に会えばいいだろ! なんで部屋からエロ本持ち出してくるんだよ!?


「寂しかったよぉ、ヒロくん!」


 友李は目に浮かべてた涙をポロポロ流しながら、俺に抱きついてきた。


「はいはい。ヒロくんって……なんか懐かしいな」


 ヒロくんというのは、幼稚園の頃の呼ばれ方だ。最後にそう呼ばれたのは、もう10年以上前だろうか。なんだか不思議な気分になる。



「あっち行ってたときの思い出は明日聞いてやるから、今日は帰って寝ろ。な?」


「やだ。まだ一緒いる」


「なんだよ。呼び方だけじゃなくて精神年齢も幼稚園か?」


「どうしても、だめ?」


「だめだ」


 俺は微笑ほほえみかけながら答えた。だが、次の瞬間。


-ドサッ


 何かに突き飛ばされるような感覚が、俺を襲った。


「痛ってぇ……」


「こうすれば、帰らなくてもいいよね」


 友李は俺に馬乗りになっていた。まてまて、これどういう状況なんだ?


「良くねぇから! 早く降りろぉ!」


「ひどいなぁ。あのね、しても……いいんだよ?」


 そう言うと、友李は自分の着ている上着のえりをヒラヒラさせた。


 全く……今日はとんでもないことばっかりだ。俺になにが起きてるっていうんだよ……?

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