第3話「責任を取りなさい!」

「今なんて?」


「なんで聞こえないのよ! ……私が、あんたのこと好きになってあげたって言ってるのよ!」


「なぜ恩着せがましい!」


 いやいやいや。まず、それを俺に言ってどうすんだよ。それに、俺としては彼女が欲しいとも思わんし……男子の目のかたきにされそうで怖いし。


「そんなことを言って、俺にどうしろと?」


「責任を取りなさい!」


「やだ」


 おっと、食い気味で答えてしまった。ツンツンさんの言うことなんて大体予想がつくから、即否定だぜ!


「なんでよ! 元はと言えばあんたのせいでしょ? か、可愛いとか……言ってくるから」


「俺そんなこと言ったっけ?」


「言ったわよ。私がお昼ご飯忘れちゃった時に」


 言ったかぁ? うーん……え、もしかしてあの時の?


 俺は数日前の昼休みの会話を思い出す。


『だ、だって……私こんなんだから友達もいないし……作ろうとしても……上手く、いかないし……』


 これに対して俺が……。


『なんかお前、可愛いな』


 言ってないこともないな。でもちょっと待て。あれは必死に頑張ってるのが小さい子みたいで可愛いという……。


「あのなぁ……あれは恋愛的な可愛いじゃなくて、頑張ってるのが可愛いってことなんだよ」


「でも可愛いって言ったじゃない!」


「だとしたら、世の中の父親は娘の頑張りに対して『可愛い』という言葉を使うたびにロリコンになるのだが」


「そうよ! そうなるわよ! だからあなたもそういう可愛いを言ったのよ!」


 なんて横暴おうぼうな……。世界中の男性に謝れ。


「責任なんて取らねえし、あの可愛いはそういう意味じゃない。いいな」


「なによなによ……。もういいわよ。どうせ私なんて……孤高ここう気取りで一人悲しく生きていけばいいんでしょ……グスン」


 えぇ……。急にキャラ変わってるんだけど。


 つか、泣くな泣くな! 周りの客からすごいヤバいやつみたいな目で見られてる。主に俺が!


「お、おい。泣くな」


「私なんて私なんて……グスンッ」


 だめかぁー。全く聞いてない!


「なぁ、責任を取る……というか、お前の友達作りの手伝いをするってのじゃダメか?」


「友達グスンッ、作り?」


「あぁ。それならお前も一人でいることないだろ。どうだ?」


「わかった。でも、途中でやめたりしたら、わかってるわよね?」


 いや、わからんけどこれでもういいわ。これ以上厄介なことになっても困るし。


「俺もそんなにうまく手伝えるかわからないけど……なんかこうしてみたいとかあるか?」


「そうね……それなら、明日ショッピングモールにいきましょう」


「だから、なんでそうなるんだよ」


「世の中の友達という関係同士の人たちは、休日にショッピングモールに行くものでしょ? それを見て学ぶのよ」


「なるほど。一理あるな」


「ということで、明日は朝からデート……じゃなくて! 視察に行くわよ!」


「今デートって言わなかったか?」


「違うわ。デートしてるカップルが多いかもしれないけど、と言おうとしたのよ」


 めっちゃ睨みつけられてんだけど。怖いから。ツンツンしすぎだから。


「まぁいいや。連絡先教えとくから、時間とか決まったらそれで知らせてくれ」


「連絡先! 早く! 早く見せなさいよ!」


 おぉ、また表情が変わった。やっぱり、こういう単純なとこが小さい子みたいで可愛……だめだな。こんなこと思ったらまた言いがかりをつけられそうだ。




 連絡先を交換した俺たちは、しばらく雑談をしてから解散した。


 友達ができたらこんなことをしたいとか。自分の趣味はこうだから、同じ趣味の人を見つけたいとか。


 その話を聞いていると、あんまり自信はないけど、友達作りぐらい手助けしてやるかと思えた。無理のない程度に頑張りますか。


 ……というか、『可愛い』って言われただけで好きになるって、どんだけ単純なんだよ……。

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