第2話「いや、逆になんで待ってんだよ」

 1週間の登校が終わり『土日ひゃっほーい』みたいなテンションの金曜日。


 俺は休日の予定を考えながら、学校の門を通り抜ける……つもりだった。


「なに待たせてんのよ。早くしなさい!」


 なぜか俺は、学校一のツンデレ美少女に睨まれ、イチャモンをつけられていた。


「いや、逆になんで待ってんだよ」


「待ってたから待ってるのよ!」


「もうちょっとまともな返事はないのかよ」


 あぁー、なんか周りから超見られてる。男子からの嫉妬の目線。そして女子からの不審がるような目線。怖いよぉ……。


「待ってもらう必要ないから早く帰れ。そんじゃあな」


 俺は片手をひらひらさせながら再び歩き始めた。本屋にでもよって帰ろうかなー。


「だからぁ! 待ちなさいって!」


—ポコッ


「イタ……くない。なんだよ、まだなんかあんのか」


 鞄で背中をどつかれた俺は、振り返りながらたずねる。


「だから……この前の、お礼したくて……とりあえず、来なさいっ!」


 咲良さくらはそう言うなり、俺のワイシャツのえりを引っ張って歩き始めた。


 ちょ、近い。顔近い! めっちゃいい匂いする!


「おい、これお前の身長に合わせて腰折らないといけないからキツいんだよ。離せチビ」


「うるさいわねっ。大人しくしてなさい」


 俺の話を聞かない咲良は、グイッとさらに俺を近づけた。男子の憧れとの顔の距離が、

3センチもない。


 なんか体温は伝わってくるし、吐息も聞こえてくる。……無だ、無心を貫くんだ、俺。



 しばらく歩いて着いたのは、駅前のちょいお洒落なカフェだった。


「何か好きなのをご馳走するわ。この前のお礼よ」


「別にいいよ。コンビニのパン二つとここの飲み物じゃ割が合わん。それに、女子におごられるのは気が引ける」


「なにカッコつけてんのよ。そうね……それじゃあ、あなたが私に買いなさい」


「はぁ? なんでそうなった?」


 理不尽ここに極まれり! みたいなことを言い出した咲良は、ニコニコ笑顔でメニューを見始めた。


「なぁ、マジで俺は何のためにここに連れてこられたんだよ」


「それは私があなたとお話ししたいから……じゃなくてっ!! お礼、そうよお礼! 私と一緒にいられるなんて幸せでしょう! まったく、お釣りが出るくらいよ!」


 いや出ねえよ。すごい剣幕だったけど、あんまり本心隠せてなかったよ? にしても、俺に話すことなんてあんのか?



 誠に不本意ながらも、なんちゃらフラペチーノ(クリーム増し増し)を買わされた俺は、ぼーっとしながらアイスコーヒを飲んでいた。


「んー、これ美味しい。やっぱり甘いものは至福ね」


 一方の咲良はなんちゃら(略)を幸せそうな笑顔で飲んでいた。やはり、幸せというのは誰かの犠牲の上に成り立つものなのだろうか……(泣)


「おい、口にクリームついてんぞ」


「へ? ん……とってよ」


「なんで俺が」


「いいから早く!」


 いや待てよ、さすがにホントにやるとは思っていないだろう。なんかからかうような表情してるし。


 ……でも、もし本当にやったらそれはそれでドン引きされるよな。つまり『キモい早く帰れ!』というツンツンが発動し、俺は今すぐ解放される。


 やってみる価値はある!


「ほれ、とってやるから大人しくしてろ」


「えっ、本当にするの?」


「当たり前だ。お前が言ったんだろうが」


「……!」


 俺は咲良の真っ赤な顔に手を伸ばした。ヤバイ、目閉じてる時の無防備な表情可愛すぎ。


「はい、とれたぞ」


「あ……ありがちょ…………」


「なんて?」


「ありがとうっ!!」


 おい、あんまり引かれてないぞ。むしろかれたみたいな雰囲気。今うまいこと言ったわ。



「そんで、これだけのために俺を引っ張ってきたのかよ」


「違う……相談があって。聞きなさい」


 なんて強引な相談なんだ。まぁ暇だしいいけど。


「お友達を、作りたいの」


 思いのほか真面目な相談で、急に居住いすまいを正してしまった。


「なるほど。前言ってたもんな」


「そう……。それからもう一つあって」


 咲良はそこで言葉を区切ると、深呼吸をした。そして、真っ赤な顔をして話し始める。


「私、あなたのことが好きになったんだけど……どうすればいいの?」


 いや、知らんがな。

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