第9話「おい! 変な声出すな」

「そんじゃ……いくぞ」


「え……えぇ」


 俺は固唾かたずを飲み込み、咲良さくらの背面へ手を回した。


 あ、いきなりこんな始まり方だけど、やましいことなんてないよ? ホントだよ?


 まぁ、やろうとしてる事そのものは完全にアウトだけどね! なにって……そりゃ美少女クラスメイトのブラホックを外すなんて、どう考えたってアウトだろ?


 だが、背に腹は変えられん……。


 俺は慎重に指先を動かした。できるだけ素早く……そして雑にならないように。


「んっ……」


「おい! 変な声出すな」


「仕方ないでしょ! くすぐったいんだから」


 俺は指先の震えを抑えながら、ひもと紐の繋がっている場所に手を添える。


 一応服の上からとはいえ……なんかこう、すごくいけないことをしてる気分だ……。


「そんじゃ、外すぞ」


 咲良は無言でうなずいた。かなり神妙しんみょう面持おももちだ。


 俺は合図を確認して、指先を動かした。


-パチッ。


 ミッションコンプリート。これで……これでここから出れる!


「それじゃあ、私は紫陽花あじさいさん達を誘導してくる」


「あぁ……ちょっと待て。これ着ていけ」


 そう言いながら、俺は自分の着ていたシャツを差し出した。


 もしも透けたりしたらかわいそうだからな……一応こいつも乙女なわけだし。


「あ、ありがとう」


「おう。そんじゃ頼むわ」



 そこからはかなり順調に進んだ。咲良が紫陽花を連れ出し、俺はそのすきを見計らって試着室の中から出る。


 問題があったといえば、咲良が置いていったブツを俺が持っていかねばならなかったところ……だろうか。


 ハッハッハッ。なんかもう、そんなんどうでもいいわ!


***


「無事に出てこれたみたいね」


「あぁ、助かった」


 俺と咲良は休憩スペースで合流していた。生きて出てこれたことに感謝だ……。


 とりあえず礼の言葉を伝えたところで、先ほど回収したブツを持ち主に差し出した。


「……」


「……これって……わ、私の下着……!?」


 咲良は涙目になりながら、『キッ』と俺を睨んだ。


「置いていくと悲惨ひさんなことになりかねないと思って……」


「へ、変なことしてないでしょうね?!」


「してねーよ。潔白だ、無実だ」


 俺が無実を主張したところで、咲良は化粧室へ足を運んだ。恐らく、渡したアレを装着するのだろう。


 とりあえず、少々の問題はあったが、ほぼ問題なく出てこれたから良しとしよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る