第10話「早く。お姫様抱っこよ?」

「……」


「……」


 着替えが終わって戻ってきてからも、咲良さくらは機嫌が悪かった。


「えーと……ホント、ごめんな?」


「……」


 何を言っても『ツンッ』とそっぽを向いて返事をしない。


 どうにかして機嫌を直してもらわなければ……。というか、俺はそもそもなぜここにいるんだっけ? 何しに来たんだ?


 …………あ、確か、咲良の友達作りの手伝い……だったはず。


 仕方ないか……あれを、やるしかなさそうだ。


「あのー……プリクラ、撮りたいか?」


「……」


 咲良は相変わらず反応しない……が、急に逆方向に歩き始めた。


 その方向にあるもの、そう! それはゲーセンだ!


 どうやらプリクラを撮るというのには食いついたようだ。このまんま機嫌直してもらうぞ!


「なぁ、さっきのは本当にすまなかったと思ってる。それを承知の上で頼むんだけど、許してくれないか?」


 これはもうあれだな、誠心誠意せいしんせいい謝るに限る。


 そして、どうやら俺の誠意は伝わったようで……。


「別にあなたに対して怒っているわけじゃないの……」


「だったらなんでそんなに機嫌悪いんだよ?」


 咲良は少し間をおいてから答えた。


「あなたに下着見せるなんて思ってなかったから……勝負下着じゃなかったのよ……!」


「…………」


「私、昨日あなたのこと好きって伝えたでしょ……? その好きな人に見せるなら、ちゃんと……」


「…………」


 咲良は、それはもう後悔と自己嫌悪に溢れた顔でそう言った。


 例えるならば、大事な大会の朝に、小指をタンスの角にぶつけて、本領を発揮できずに負けたような感じだ。……なんだそれ。


「なんかもう……ホントむくわれないよなぁ」


「なによ、女子にとっては大事なことなの!」


「知らねーよ、そんなこと。しかもそれを当の本人に言ってどうするんだよ……」


「それもそうね。じゃあ、さっきの忘れなさい!」


 なんかもう……こいつ、ツンデレというか横暴なだけなのでは?


***


「すごい! 沢山あるのね!」


「なんで写真撮るだけなのにこんな種類あんだよ」


「いろいろ違うのよ、多分。ほら、デジカメだって沢山あるでしょ?」


「それとこれとは話が別だ!」


 ゲーセンについてからかなりの時間が経ったが、どれで撮るのがいいのかわからなくて、いまだに機械の前をうろちょろしていた。 


「とりあえずあれにしよーぜ。当店一押しって書いてあるし」


「そうね。他のは次に来たときに撮ればいいわ」 


 ちゃんと友達と来ようとする意思があるのはいいことだ。なのに、俺に微笑みかけてくるのはどういことだ? 俺はもう二度と撮らないからな!



 機械に小銭を入れて中に入ると、それはもう目がチカチカする空間が広がっていた。


「とりあえず、なにかポーズを撮りましょう」


「おぉ、ピースでいいんじゃないのか?」


 ということで、1枚目と2枚目はピースサインでパシャリ。


「これ、撮るたびに目がくらむんだが」


「我慢しなさい。で、次はどうする?」


「んー、あぁほら。画面にガイドあるぞ」


 俺はカメラの下にある画面を指さした。そこにはオススメのポーズが表示されていた。


 お姫様抱っこに、猫の手ポーズ……萌え萌えキュンのポーズ……もっとこう、男に優しいやつはないのか?


「つかぬことを聞くけれど、あなた体力測定の腕立て伏せ、かなりいってたわよね」


「うん」


 咲良は無の表情で聞いてきた。そして、なぜか俺の目の前に移動してきた。


「はい」


「なにが?」


「早く。お姫様抱っこよ?」


「却下だ」


 俺が首を横に振ると、咲良はむくれて反論してきた。


「このガイド見せたのはあなたでしょ! それに……さっき私の下着見たでしょ?」


「それは忘れろって、さっきお前が言ったよな?!」


全然全ぜんぜんまったく。そうね……どうしてもやらないというのなら、学校でみんなに言いふらすわ」


 こいつ、人の足元見やがって。


「わかったよ。やるから、絶対誰にも言うな」


 咲良は満足げな顔をしてこっちを見た。それと同時に、俺は金輪際こんりんざいプリクラを撮らないことを心に誓った。

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