第35話「そんなのが役立っても嬉しくねぇよ」

「お客様。お味はどうしでしたかぁ?」


 ニヤニヤと俺たちを見つめていた人物が、ニヤニヤしながらこっちに近づいてきた。


 ……そう、俺の二人いる幼馴染の男の方。山出寿志やまでひさしだ。


「あのなぁ、猫カフェでわざわざ厨房から出てきて挨拶にくるやついないだろ」


「久しぶりに会ったんだし、いいじゃんかよ。それに、彼女できたなんて聞いてないぞ!」


「ちょくちょく電話してるだろ。あと、俺たちは付き合ってるわけじゃないから」


 寿志は『ふぅん』なんて言いながら、咲良さくらの方を見た。


「俺は尋斗ひろとの幼馴染の山出寿志。よろしく!」


「私は咲良望美さくらのぞみ。えっと、平良くんの……彼女候補?」


「ブフォッ」


 いきなりすぎて、俺は口に含んでいたコーヒーを吹いてしまった。


「おい、咲良! お前ちょっと落ち着け! 猫がいて嬉しいのはわかる。でも、ホント頼むから一回冷静になれ!」


「私じゃダメだって言うの?! やっぱり霧宮きりみやさんとか紫陽花あじさいさんの方がいいんだ?!」


尋斗ひろと……お前、いつの間に女たらしになってたんだよ……」


「余計なことを……。おい寿志。言っておくけど、俺の方から声かけたわけじゃないからな」 


 寿志がこんなことを真に受けるやつじゃないのはわかってるけど、一応誤解は解いておかないとな。


「そう言うお前は、彼女とかできたのか」


 俺は話題をすり替えるために、寿志のことについて聞いた。


「いねーよ。まぁ、気になってるやつはいんだけどさ」


「お前が片思いとは珍しいな。いつもなら告られる側なのに」


「そう言われればそうかもな。……で、それはそうと、ちょっと頼みたいことがあるんだけど」


 寿志はチラチラと俺に目配めくばせをしながらそう言った。


 二人だけで話したい、ってことでいいのか? まぁ、よくわからんけどそういうことにしよう。


「あぁ……咲良。あの猫かまって欲しそうにしてるし、行ってみたらどうだ?」


「うん! 平良くんもあとで来てね。デートなんだから!」


「わかったよ。少し待っててくれ」


 俺が返事をすると、咲良は猫のもとにかけて行った。どんだけウキウキしてんだよ。


「これでいいのか」


「さすが。友李ゆりから逃げるときのアイコンタクトが役に立ったな!」


「そんなのが役立っても嬉しくねぇよ」


 俺たちは笑ってそんなことを話していたのだが、しばらくしてから、急に寿志の表情が神妙になった。


 恐らく『頼みたいこと』というのを話すという合図なのだろう。


 わざわざ学校のやつじゃなくて俺に頼む理由……それはよくわからないが、とりあえず出来るだけ力になるようにしたい。


 そんなことを思いながら、俺も寿志の目を見て、準備ができたことを伝える。


「えっと……」


「おう」


「言いにくいんだけど」


「うん」


「ふぅ……」


 寿志は深く呼吸をして、ついに口を開いた。


 さぁ、言ってみろ……!!


「合コンの数合わせに来てくれっっっ!!」


「…………は?」

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