第34話「私だって、平良くんに食べさせてあげたいもん!」

「お待たせしました! ごゆっくりどうぞ」


 一度、猫と遊ぶのをやめて席に戻ると、丁度注文していたものが届いたところだった。


 名前はかなりデンジャラスだったが、見た目は可愛らしくて、女子受けの良さそうな感じだ。


 それに、値段の割に量もしっかりしてるから、ちょっとした穴場なのかもしれない。



「「いただきます」」


 うん! コーヒーもパフェも、街中の店に負けず劣らずのできだ!


 けど、何故なぜだか懐かしい味がするんだよなぁ……。


「ねぇ、平良たいらくん!」


 俺が懐かしさの正体を思い出そうとしていると、ご機嫌な咲良が声をかけてきた。


「どうした?」


「そのパフェ、一口食べさせてもらいたいな! 変わりに私のもあげるからさ!」


「え……まぁいいけど」


 どうせいつものツンツンに戻ったら、口うるさくイチャモンを付けられるんだろうなぁ。


 なんてことしてくれたのよ! とか、いろいろ心外なことを言われる予感……。言い出したのそっちなんだけどなぁ。


 心の中で『めんどくせー』と思いつつ、俺はパフェに乗っているアイスをすくって、咲良の顔の前に持ってきた。


「ほら」


「あーん。うん、おいしぃ! はい、私のもお返し」


 そう言うと、今度は咲良の方がパンケーキ……いや、キュートな肉球パンケーキ•改を差し出してきた。


「別に俺はいいよ」


「もしかして……照れてるの?! でも、霧宮きりみやさんから聞いたよ。学校の食堂で、紫陽花あじさいさんにあーんしてもらってたって」


 あいつ、咲良に話しやがったのか……。


「私だって、平良くんに食べさせてあげたいもん!」


 咲良は、店中に響くような大声でそう言った。


「わかった! わかったからあんまり大きな声出すな!」


 ほらぁ。大声出すから、少し離れたところにいるおばさんコンビが、ニヤニヤしながらこっちみてるじゃん。


「あらあら、可愛い彼女ちゃんだこと」


「いいじゃない。私たちなんて、親の介護の時ぐらいしか食べさせるとかないんだから」


 そんなことを言いながら笑う、おばさんコンビ……猫カフェでどんな会話してんだよ。


「はい、あーん」


「ん……お、美味しい。ありがと」


 俺は咲良から視線を外してそう言った。


 あれ? なんで俺がこんな反応しなきゃならないの? なんかおかしくない?


 複雑な気持ちになってしまった俺の耳に、またおばさんコンビの会話が入ってくる。


「まぁ! 照れ屋さんな彼氏だこと! イケメンなのに、女慣れしてないのねぇ!」


「でも、厨房ちゅうぼうのところにいる男の子。さっきからあのカップルをニヤニヤしながら見てるけど、中々イケメンよ!」


 え? なに、店員にも見られてたの? うわぁ、せっかくいい店を見つけたのに、来るたびに気まずくなっちゃうじゃん。


 俺はその店員の顔を確認しておこうと、厨房の方を見た。


 ホントだ、超ニヤニヤしてる。……ん、でもあのイケメン、どこかで見たことあるぞ?


 そういえば、俺には寿志ひさしという、スイーツ作りが得意な幼馴染がいたような気がするんだが。


 でもまさかなぁ。あいつがここでバイトなんて……なんて……。



 マジですか……?

 

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