第7話「静かにして! あとこっち見ないで……」
手短に今の俺の状況をまとめてみよう。
俺が振った女の子、
ただし……入った店はランジェリーショップ……。
んー、もうただただカオスでしかない訳なんだが……俺にどうしろと?
「ちょっと! こんな店の何が気になるっていうのよ」
「あ、いや……これには深ーい訳が……」
俺が握っている咲良の手は小刻みに震えていた。
そりゃあ怖いよな。急にこんなとこに引きずり込まれたら……。
ちゃんと話すべき……か。まぁ余計な部分は削って話そう。
「なんか急にごめん。でも、あれ見ろ」
俺は例の集団の方を指差した。
「あれって」
「そう、紫陽花とその取り巻きだ。俺は諸事情によりあの取り巻きに命を狙われている。だからとっさに隠れようとしたらこの店だった……ってことだ」
若干削りすぎた感のある説明だったが……ま、いっか。
「わかった。とりあえず彼女たちがいなくなるまではここで待っていましょ」
「悪い、助かる」
俺はできるだけ周りを見ないようにして咲良の後ろを歩いた。
「お客様、何かお探しのものはありますか?」
「えっ、あっいえ。私は特に……」
また店員かよ! 察しろよ、男連れてんだぞ。気をつかえ、気を!
「そうでしたか。あっ、オススメの商品があるんですが、試着だけでもいかがですか?」
いやもういいから立ち去ってくれ……。俺が心からの
「もしかしたら彼氏さんを………………」
うまく聞き取れなかったが『彼氏』という言葉が出てきたことと、その話に咲良が食い付いたことだけはわかった。
咲良はオモチャを見つけた猫のような目をして店員に話をしていた。どんだけ興味を引く話だったんだか……。
というか俺は彼氏じゃない……なんてツッコミを入れる気力もないな。
「それではこちらにどうぞ」
咲良と俺は店員の案内によって試着室の前に来ていた。
「絶対に覗いたりしないでよ!」
「はいはい。わかったから早くしてくれ」
じゃないと俺の理性が……!
あー、なんで俺がこんな目に合わなきゃならんのだ。いや、こんなところでボヤいても仕方ないか……。
俺が無を貫きボーッとしていると、後ろから聞き覚えのある声がしてきた。
「結愛さんはどのような色を?」
「可愛いものであればなんでも、ですかね。装飾が綺麗なものも好きですよ」
カエリタイ。むしろ天に帰りたいのだがどうしようか。
あろうことか
「結愛さんのお胸の大きさだと、いろいろなデザインがあって羨ましいです」
「いいことばかりではありませんよ。ここだけのお話、最近も少しずつ大きくなっていて、すぐに合わなくなってしまうんです」
……無駄な知識が増えたんだがどうしたものか。咲良はまだ出てこないのか?!
「それはいいことですよ! そもそも結愛さんのお胸を押さえつけようという考えが間違っているのです」
すごい斬新な考えだな。俺が言うのもなんだけど、お前なんのためにこの店きてんだよ。
ひとしきりそんなツッコミを入れたところで更なる試練。
やつら、こっちに近づいてくるぞ。
やばい、今度こそ詰んだ。もう逃げる場所がない。そんなことを考えていた時……
-グイッ。
「って」
「静かにして! あとこっち見ないで……」
俺の目の前にはTシャツで上半身を隠す咲良がいた。
服を着ているわけではない。服で上半身を隠しているだけだ。ちなみに下は……うん。
さっきは俺が手を引っ張り、今度は俺が引っ張られた訳なんだが……これはまずいだろ。
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