第6話「プリクラ……ゲームセンターよ!」

「どうかしら!」


 試着室から出てきた咲良さくらは元気よく聞いてきた。


 ……どうか? と聞かれてもよく似合うとしか言いようがない。もちろんお世辞は抜きでだ。


 膝上数センチの、淡い水色のスカート。上は袖の部分が透けてる半袖のTシャツ。


 全体的に華奢きゃしゃだが、出るとこが出ている体のラインを、このコーデはより引き立たせている。


 ……うぅーん。控えめに言って、かなり良き。


 これは素直に言ったほうがいいだろう。


「良きかな……」


 どこかの河の神のように呟き、水の体で宙を舞い、モール内から退場……するわけもなく。もちろん泥団子みたいなやつも出さない。


「喧嘩売ってるの?」


「すみません許してください」


「で? どうなの?」


 咲良はねたようにして再びたずねてきた。


「可愛いと思うぞ。結構俺の好み、かな」


「そ、そぉ……」


 咲良はそう言うなり、そそくさとカーテンを閉めてしまった。


 あいつ照れやすすぎだろ。


***


 服屋をあとにした俺たちは次なる目的地に向かっていた。


 とは言っても、俺は咲良の後ろについて行ってるだけなんだが。


「なぁ。俺たちはどこに向かってるんだ?」


「プリクラ……ゲームセンターよ!」


 世界ザ・ワー◯ド! プリクラ……その言葉を聞いた瞬間、俺だけの時が止まった。


 そして少しずつ少しずつ記憶を……時をさかのぼっていく。


 ザ・ワー◯ドとキラー◯イーンを両方使える俺は最強! ……なわけないか。


 あれは数年前、クラスのお別れ会のようなもので似たようなモールに来た時のことだ。


 俺は一人の女子にプリクラを撮ろうと誘われた。今までそんなに親しいわけでもなく、用事があれば話すぐらいの関係だった女子からの誘い……当時の俺は内心大喜びしていた。


 初めてのプリクラで戸惑う俺に、彼女は色々なことを教えてくれた。


 そして、撮り終わった写真に文字を書き、印刷した後のことだ……。


「たーいら!」


 どこからともなく現れた数人の男子と女子に、俺は名前を呼ばれた。


「どおどお? 俺たちのドッキリはどうだったー?」


「え?」


「お前が女子に誘われるわけないじゃんかよ! まさかマジで期待してた?」


 ……まぁ、今思えばよくある事だと……そう割り切ることができるのだが、あの時の俺はかなりショックを受けていた。


 もちろん普段から仲のいい男友達は、俺のことを気にかけてなぐさめてくれた。


 でもプリクラという物へのトラウマは今でも消えない。


 そう、俺は相手が誰だろうがプリクラを撮るのが嫌なのだ。


「なぁ、俺ああいう狭いところ無理なんだよ」


「エレベーターには乗れるのに?」


「……ほら、あんなとこに男女二人ってのはね?」


「あんなとこで何をするっていうのよ……呆れた。それに、私には欲情しないんでしょ? それともさっきのは嘘かしら?」


「……」


 ヤダヤダヤダ。あれだけは絶対に撮りたくない! 考えるんだ、何か回避する方法を。


 俺は全力で脳を働かせながら歩いていた。周りの人間の騒音さえも聞こえないぐらい集中して。


「ゆ……さん、次はどこに行きますか?」


 周りの音が聞こえないぐらい集中して……。


「……あさん。少し休憩した方がいいのでは?」


 集中……うるさいなぁ! 俺はやけにうるさいの方を睨んだ。


 十数人の女子、さらにそれを囲むように……さながらSPのような男子が十数人。


 そしてその中心に……


結愛ゆあさん、あのお洋服屋さんに行ってみませんか?」


 紫陽花あじさい 結愛ゆあがおるー!


 このままでは間違いなく鉢合はちあわせしてしまう。


 プリクラは回避できるかもしれないが、あいつらに見つかったら命の危険が出てくる……マジで。


 とりあえずどっか店に入るしかない。


 そう思った俺はとっさの判断で、咲良の腕を掴んですぐそこの店に入った。


「痛い……なに、どうしたの?」


「あぁ……いや、この店前から気になってたからさ。悪い悪い」


 もちろん嘘です! ここがなんの店かなんて知らん!


 とりあえず状況を把握するために店の中をキョロキョロと見回した。


 ピンク、白、水色、黄色……その他さまざまな色が並んでいる。


「あなた……前からこの店が気になっていたって……まぁ、男子だものね」


 フォッフォッフォッ。なるほど、どうやらここは女性用の下着を取り扱う店らしい。


 あぁ…人生詰んだw

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