第24話「本当にキライじゃない?」

 俺たちがお化け屋敷に入ると、よくある説明を交えた怪談話が流れてきた。


『その昔、この館で若い夫婦が殺された。クックック……さて、君たちはこの館から脱出できるかな?』


 …………え、それだけ?! 三流のホラーゲームだって、もうちょっと丁寧な説明するよ?! さすがに、こんなんじゃ期待できないなぁ。


 そんなことを思いながら、俺は友李ゆりの方を見た。想像よりかなり手抜きな感じだし、これなら怖がりでも大丈夫だろ。


-ガクブルガクブル……


 小鹿だ、こんなところに小鹿がいるぞ!


「ゆ、友李? もしかして今のアナウンス怖かった?」


「ま、まさかっ……これなら、ホーンテッドなんちゃらの方が怖いわよ!」


「お、おう」


 嘘だろ……比較対象が某有名テーマーパークの、幼児でも安心安全のアトラクション……。


 いや待て、こいつのことだ。実はこれは怖がっているフリで、後からなにか仕掛けてくるという作戦ではないのか?


 普通に考えて、この程度の怪談話で怖がる奴の方が不自然だ。


 友李のドSレベルからして、ここでイタズラをしてくるというのは至極当然というものだ。なら、試してみるか……!


 ということで、俺は何も言わずに友李を置いて、10m先の曲がり角までダッシュしてみた。



「追いかけてこない……やっぱり本当に怖いわけじゃないのか」


 本当に怖いなら、一人になるのが嫌で、すぐに追いかけてくるはずだ。


 俺は角から頭を出して、友李の位置を確認した。


「……って、いない?」


 いない、どこにもいないぞ。元いた場所にも、途中の道にもいない!


 うぅん……入り口に置物おきものなんてあったっけ。俺は入り口の近くに出現した凝視ぎょうしする。


 球体……? いや、そうでもないな。気になる……!


 好奇心旺盛こうきしんおうせいな俺は、謎の物体の方へ近づいていく。


「……グスン……スンッ」


 泣き声……? 子供の霊の再現か?


「グスッ……ヒロくんの、バカァ……グスン」


 これ……間違いなく子供の霊ではないな。なんか知ってる制服きてるし。ヒロくんって言ってるし。


 その呼び方をする奴なんて一人しかいないわけで……。


「友李? 大丈夫か?」


「なんで置いてくのぉ……グスッ。そんなに私のこと嫌い……?」


 友李は涙をボロボロ流しながら聞いてきた。やばい、予想外すぎてどうすればいいのかサッパリだ。


「嫌いなんかじゃないよ。ただ……またいつもみたいにイタズラなんじゃないかと思って」


「本当にキライじゃない?」


「もちろんだ。この世にたった二人しかいない、俺の幼馴染の内の一人なんだから。とりあえず、早く出よう?」


「うん。でも足に力入らないから、おんぶ……して?」


「はぁ……そんなに怖いなら最初からやめておけばいいのに。ほら、早く乗れ」


 俺は友李を背中に乗せて歩き始めた。顔が俺の肩に乗っかっているから、当然顔が近いし顔が近いし顔が近い。


 いまだに泣き止まない友李の生暖かい呼吸が頬をかすめる。……あれ、何この文学的な表現。どうしたんだよ、俺! 気をしっかり!


 おっと、これはお化けよりも、友李をおんぶしているという状況の方が心臓に悪いのでは?

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