25 強行突破
リーヴェスの兄弟がいる場所は、お兄様にお願いすると調べてくれた。
会ったこともない人たちに会おうとしているため、礼儀作法に則って訪問させてくださいと手紙に書き、使用人に届けてもらった。返事は一日もしないうちに届いたが、「そのような者たちはオルヒデー家にはおりません」と書かれているだけだった。
ユベールと、こうなったら屋敷に乗り込もうという話になった。お兄様からは毎日のように、何か行動を起こす前に教えてくれと言われていたので、私はそのことをお兄様に話した。
すると、お兄様も一緒についてくると言う。指定されたのは、二日後の夕方だった。私は今すぐにでも乗り込みたかったが、お兄様に従うしかなかった。
ぽっかり空いてしまった二日間は、ユベールと二人で国立図書館へ行き、聖剣以外に魔物を倒す方法がないか調べた。しかし、聖剣や魔物に関する話はすべて国家秘密になっているのか、それらしいことが書かれている本はほとんどなかった。
唯一見つけられた本は、魔物について間接的に書かれた、怪奇小説だけだった。怪奇小説には、怪物を目撃したと主張する友人が、少しずつ心を病み攻撃的になっていき、結局は悲惨な死を迎えるまでの出来事が細かく描写されていた。作者のあとがきを見ると、これは実際にあった話をもとにして作られた、作り話だと書かれていた。
この本はユベールが見つけてきたのだが、私一人で探していたら見つけることはできなかっただろう。私は手がかりがあるとしたら歴史書の中だろうと思い、歴史書の置いてある棚しか探していなかったためだ。
ユベールは、その小説に書いてある「友人が見た怪物」というのは魔物のことに違いなく、作者の友人は魔物が発する邪気に当てられたのだろうと言った。友人が、怪物が出たと言っても誰も信じなかったことから、この時は魔物が出てもすぐにオルヒデー家が退治したのだと推測できる。
実際にその小説が初めて書かれた年を調べると、今から約二百年前だった。私たちの手元にある本は、十年ほど前に原作をもとに再度出版されたもののようだった。
図書館の本をすべて調べられたわけではないが、人間が記録した本に私たちが求めることが書かれている可能性は極めて低く、聖剣以外に魔物を倒す方法があるとするなら、グラディウスのような人外のものを探して、ヒントを得るしかないだろうという結論になった。
グラディウス以外の人外の生き物というと、とりあえず私はお兄様を知っている。邪気を浄化する力を持っていたという、ユベールと私の先祖も、もしかしたら人外の生き物だったのかもしれない。
私が知らないだけで、人外の生き物は意外と存在しているように思えるが、どうしたら出会うことができるのだろう。人外の生き物を探すだけで、おばあちゃんになってしまうような危険性を感じた。
ユベールは私と一緒に聖剣以外に魔物を倒す方法を探してくれてはいたが、「頼む、なんとかしてリーヴェスと結婚してくれ」と私に何度も言ってきた。
リーヴェスを自分に惚れさせて結婚までもっていくなんて無謀な話だと思っていたが、今ではその方法が一番簡単なのではないかと思えるようになってきた自分が恐ろしい。
そうこうしているうちに、お兄様と約束した日の夕方になった。お兄様とは、リーヴェスの兄弟がいるとされるオルヒデー家別邸の門の前で合流する予定になっていた。
約束の時間になると、お兄様は門の前にやってきた。私とユベールは目の前にいるのに、なぜかお兄様は何かを探すかのように周りを見回している。
「どうしたの?」
と私が聞いても、お兄様は
「何でもない」
と笑顔で言うだけだった。
「それでは早速、お邪魔しましょう」
私は門に手をかける。リーヴェスの家と同様で、門には鍵がかかっていた。ユベールが門に登ろうと手をかけたところ、
「待て」
と声が聞こえてきた。
声の主の方を見ると、そこには馬に乗ったリーヴェスがいた。急いできたのか、リーヴェスの額からは汗が流れている。
「どうしてリーヴェスが?」
私がリーヴェスに聞くと、リーヴェスは馬から降りながら
「ご丁寧に、お前たちがいつオルヒデー家の別宅に行くか、俺に連絡をよこした奴がいたんだ。しかもその日時が、行こうと思えば行ける日時だったから、仕方なく来た」
と言った。馬から降りたリーヴェスは、なぜかお兄様を睨んでいる。
「誰だろうね、私は知らないよ」
お兄様は微笑みながら私に言った。
リーヴェスは呆れた顔でお兄様を見続けていたが、ため息をつくと私を見た。
「何があっても知らないぞ。それでも行くのか?」
「もちろんよ」
ここでリーヴェスに何を言われても、引き下がる気などない。しかしリーヴェスは、それ以上は何も言わなかった。
ユベールは門を乗り越え、内側から鍵を開けてくれた。
「関わるなと言っていたくせに、止めないのか?」
私たちの後ろでただ見ているだけのリーヴェスに、お兄様が優しい口調で声をかけた。
「お前の妹が聞かないんだ、止めてくれ」
お兄様が私を止めるわけがないのに、リーヴェスは訴えかけるような目でお兄様を見ている。お兄様が少し困っている顔をしているように見えたので、
「お兄様はいつも私の味方よ。私がやりたいって言っていることを止めたりしないわ」
とリーヴェスに教えてあげた。
リーヴェスは私の言葉に納得できないようで、物言いたげな顔でずっとお兄様を見ている。困ったように笑うお兄様と、複雑そうな表情をしているリーヴェスを交互に見て、ユベールはにやにやと楽しそうにしていた。
日が落ちる前には家に帰りたかったので、私はユベールが開けてくれた門を通ると、屋敷に向かって歩き出した。私が歩き出すと、ユベールもお兄様もついてきてくれた。
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