13 悪夢の始まり
気づくと、暗闇が僕の周りに広がっていた。
「ユベール、私に言ったわよね? 何としてでも自分が魔物からこの国を救うから待っててって」
兄ダヴィドの奥さんであり、僕の幼なじみでもあるマリーの声がした。しかし、彼女の姿はない。近くにいるのかもしれないが、真っ暗で何も見えない。
僕は自分の手を見ようとしたが、光がないため自分の体さえ見えない。
「私、信じて待ってた。でも、領地が魔物に襲われた時、ユベールは来てくれなかった」
僕はマリーに何かしら言おうとした。だけど、声が出なかった。
「ダヴィドも私も、何度もユベールの名前を呼びながら死んだのよ」
想像したくないのに、その時の光景が頭に浮かんだ。死ぬ前のダヴィドの顔も、マリーの顔も鮮明に見える。
目を覆いたい光景が頭の中に広がっているのに、僕は手で目を覆うことも、目を閉じることも――
「今日会ったカーティス……レティシアを守りたいって言ってたわよね。ユベールの守りたいものって何なの? この国の人たちみんな? 本当は私たち家族を守りたかったんじゃないの? ――私たち……もう死んじゃったよ」
今まで真っ暗だったのに、青白い顔で目を大きく見開いたマリーの姿が急に目の前に現れた。
やめてくれ、僕は心の中で叫んだ。
「過去さえ変われば、私たちって本当に救われるのかな?」
マリーが僕に近づいてくる。マリーは僕のすぐ近くで止まると、悲しそうな目をしたまま口元だけ笑った。
「救われるわけないじゃない。第一ユベール、何の役にも立ってないわよね。レティシアは邪気を浄化できるし、リーヴェスは魔物を倒せる。ユベールはそれを横で見てるだけ。もうこんなこと、やめてしまいましょうよ。早く私たちのところに来て」
立っている感触が急になくなって、僕は足元を見た。膝から下の僕の足が消えてなくなっていた。膝から上も少しずつ、消え始めている。
待ってくれ、まだ僕は何もしていない。
「待ってあげてもいいけど、これから先もユベールは何もしないでしょ。いたって意味ないんだから、私と一緒に行きましょう。もう苦しい思いをしなくていいのよ、あなたの冷たい心、私が温めてあげる」
マリーは僕に抱きついてきた。
目を開けると、レティシアの屋敷の敷地内にいた。空には、満月が気味悪く輝いている。
「おい、大丈夫かよ? うなされてたぞ」
心配そうに言うグラディウスの声が聞こえてきた。
「あ、あぁ……。大丈夫だ」
僕は荒く呼吸をしながら答えた。
まったく寝た気がしないが、知らないうちに寝てしまっていたらしい。
この悪夢も、テネブライの仕業なのか?
僕は、レティシアの部屋の窓を見た。レティシアも僕と同じように悪夢にうなされてはいないだろうか、と心配になった。
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