27 襲撃

 オルヒデー家別邸に出かけた日の夜は、夕飯を食べ終わるとすぐベッドに横になった。ベッドで手足を思いきり伸せることが、こんなにも幸せなことだったなんて。

 ベッドがいつも以上に柔らかく快適に感じられた。


 目を閉じると、すぐに寝入ることができた。できることなら、次の日の昼過ぎまでずっとベッドの上で過ごしたかった。

 しかし願い虚しく、まだ日が昇る前に、部屋の戸が派手に開けられる音で起こされた。


「レティシア、逃げるんだ」


 ユベールの声がした。ユベールは私のベッドに走り寄り、何のためらいもなく布団をはぐ。そして土足でベッドに上がると、私を抱きかかえた。

 緊急事態だということはなんとなく分かったが、寝起きの私の頭では何が起きているのかすぐに理解することができなかった。


 部屋の窓ガラスが大きな音を立てて割れ、三人の男が部屋の中に入ってきた。三人のうち一人は、一週間ほど前に森で私の命を狙ってきた男だった。男たちを見て、ようやく私の目が冴えてきた。


「何よこれ?」

「テネブライの襲撃だ」


 開けっ放しにされていた部屋の戸が、風もないのに閉まる。ドアノブを回しても戸は開かず、ユベールは「くそっ」と悔しそうに言った。


「大丈夫か?」


 部屋の戸の向こう側からお兄様の声がした。


「レティシア、戸の近くから離れないで」


 ユベールは剣を抜きながら私に言うと、男たちの方へ走って行った。

 私も応戦したいのに、手元に剣がないどころか寝巻き姿だ。


「この鈍感女っ」


 背後から急にテネブライの声が聞こえてきた。慌てて後ろを見るが、誰もいない。


「毎晩語りかけてるのに、なんで何ともないのよ。こうなったら、あんたを直接暗闇に連れて行ってあげる」


 急に背後から手が伸びてきて、誰かが私を抱きしめた。お母様だった。お母様は優しく微笑むと、私を黒い渦の中へと引き込んだ。一瞬のことだったため、抵抗することもできなかった。


「レティシア!」


 ユベールとお兄様の声がした。


 どこかに引きずられているような気がするのだが、周りは真っ暗で景色が変わらないため、自分が動いているのか止まっているのかよく分からない。

 少しずつ気が遠のいていった。

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