はてなき道よ、続け愚かしくも
柳なつき
合意を得ないペット
あのかたも、お戯れが過ぎます。
今度は年端もゆかぬ女の子を犬にする、ですか、やれやれ……。
動物ごっこなら
私で飽きたらほかの人間を連れてきなさいと、そうおっしゃるので私はいつだって人間を調達したではありませんか。このずんぐりむっくりな体格を生かして、哀れな被害者を物理的に押さえつけたり社会的に抑えつけたり、しましたよ、そりゃあ。私も同罪。存じております。ただ、私は、貴女さまよりは自分の狂気を客観的に把握しているつもりでございますけどね……。
いやはや。神に愛されてなお罪深い貴女。罪に罪を重ねて、罪を養分として輝いていく真実なおかた。私はそりゃ貴女に比べるべくもなくとも、あえて言うなれば同罪で同族であることは、承知しておりますが。
しかし、それというのは、私が自分自身の意思でもってして選び取ったことだからなのでございますよ。
貴女さまの奴隷である人生を、……私は、だれに強制されるわけもない自由意思で、選び取った。
だから私はよいのです。不本意にもここまで歳を取ってしまって、世間では熟女と呼ばれる歳になった私です、私の裸体など晒せば貴女さまはお上品にも醜いと言って微笑むのでしょうけど、貴女がそうしたいのであればそういたしましょう、――いまからだって犬にでもなんでもなりましょう。
しかし、それは、私だから、なのですよね。……私がそういう辱めを受け続ける人生を望んだから。
私はそれですからよいのですよ。
……ねえ。
貴女は、やはり、我慢しきれなかったのですね。
合意を得たうえでの私のような存在、奴隷的な存在。それだけでは、満足できなくなってしまったのですね。
いよいよ。
合意を得ないうえで、人間を、無理やり、暴力をもってして、畜生道に堕としてみたいと――いうこと、ですよね。
……いつまで経っても子どもみたいなひとなのですから。無邪気で、無垢で、残酷で。自分の欲望にどこまでも、素直。
そうですよね。貴女さまはそういうひと。この世界そのものを自分のお庭みたいに思って、天高い空のもと、花畑を笑いながら駆けていくようなおひと。ただし。――その花の一輪一輪が私ら凡夫なんですよ。
……あの、子ども。下の名前を、
黄色いたんぽぽのような笑顔のあの子どもを、犬にする。そう決めたのは薫子さまですが、じっさいにいろいろとあの子のお世話をするのはまあ、間違いなく、私の役目になるでしょうね。
かわいそうに。薫子さまの欲望のせいで、人生を壊される人間がここにもまだひとり。犠牲者のなかで、さすがにあの子は最年少なのではないですかね。
合意ではない、もちろん合意ではない。私のような人種は同意してるからこそよいのであって、そんな趣味やら性質やらでもないのに犬に堕とされるということは、――さあいったい何日正気を保っていられることやら。
しかし。
だれかによってすべてを破壊されたときのあの瞬間、ひらける瞬間、……だれかにつき従うというのは幸福なのだと、ええ、あるいは私のような人間もおります。もちろん、公子さん……貴女がそうだとは私は言いやしませんが。
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