承知です

 わたくしはこの数日で、コロにいろんなことを教えました。犬としてのさまざまなこと。礼儀作法や心得や立ちふるまいなど。言葉は人間のものだから喋ってはいけないということ。それでしたらどうやって意思を表現するかといったらもちろん犬らしくすること。申しわけない、と思ったのであれば頭を下げるのではなくぺろぺろと人間さまの素肌をていねいに舐めてゆるしを乞いなさい。ランニングマシンで走ったりして苦しくなって荒い呼吸をするときにも、人間らしく首もとに手をやってはいけない。ほんものの犬がそうするがごとく舌をだらんと垂らしてハッハッと大げさにいたすこと。犬というのは主人に飼われていればこそあるのだということ。

 無理を言ってる。承知です。この子は人間なのだから、犬とおなじようにふるまえるわけがない。犬はもとから犬であるからして本能としてああいった立ちふるまいをおこなうのです。たとえば呼吸ひとつ取ったって犬は熱を発散せねばという身体構造の必要上舌を出すだけなのであって、人間がそのようにしたらかえって喉が渇くでしょう。



 だから、そんなことは、承知なのです。



 無理を言ってる。幼いこの子に。……畜生に堕ちろと要求している。



 だがわたくしは当然そこに罪悪感などみじんも感じません。あるのは、ただただ、恍惚とした期待とわずかな共感めいた気持ちのみ。



 気丈な子です。将来が、楽しみです。

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