第十一幕 内宮の聖女

 再び玉依の民の隠れ里〝神宮の里〟を発った雷童丸は、三日鎚に乗って・・・わずかの間に内宮へと到着していた。


 内宮へ着くと、もとに戻った・・・・・・三日鎚を連れ、五十鈴いすず川にかかる宇治橋を渡って神域内へと足を踏み入れる。


 そして、そこらにいた神官を捕まえて〝日輪の呪士〟のことを訊いてみたところ、その所在は容易に知ることができた。


 どうやら日輪の呪士・日女神子なる人物は、神域の森の中に建つ小さな祈祷所で暮らしているらしい……。


 居場所を突き止めると休む間もなく、鬱蒼と茂る老杉の森を駆け抜け、雷童丸とその相棒は彼女の祈祷所とやらに向かった。


「……ハア…ハア…ここか……」


 全力で走り続けたため、その場所へ着く頃にはさすがの雷童丸も多少息が上がっている……膝に手を突き、息を整えて顔を上げると、その祈祷所らしき建物の前庭に一人の巫女が立っているのが見えた。


 その巫女は珠やオババさま同様、白い小袖に緋袴を履いているが、さらにその上から千早ちはやと呼ばれる神事の際に着用する白絹の衣を纏い、胸には勾玉の首飾りと神鏡をかけ、長い黒髪を垂らした頭の上にはお雛様が着けているような金色の宝冠を頂いている……明らかに普通の巫女とは異なる女官だ。


 歳は二十代の半ばかそこらのように見えるが、それよりも上のようでもあり、また下のようでもあって、年齢不詳というのが正しいところかもしれない。


 容姿は非常に美しく、涼やかな目に透き通るような白い肌をしているが、珠のようなカワイらしい美しさでも、昨晩、酒を勧めてきた巫女のような妖艶な美しさでもなく、男女の性を超越した、どこか犯しがたい神聖さをを持った美貌である。


 雷童丸が彼女に気付いた時、その巫女は天を見上げ、木々の隙間から見える空に太陽を拝んでいるようだった。


 霊木立ち並び、神気漂う森の中、金色の木漏れ日が幾筋もの直線を描く神の庭で、彼女は自然と一体化するかのように静かにそこに立っている。


 女神に会った……。


 その時、雷童丸はそう思った。そして、しばし呆然とその神々しい光景を彼は眺めていた。


「……ん?」

 

 その内に、巫女の方も雷童丸達に気づき、こちらへと顔を向ける。


「おもしろい気を帯びた若者……とウサギ?」


 彼女は雷童丸と三日鎚のことを水晶玉のような瞳で観察し、中性的な声で呟く。


「……あ、あの! あなたが日輪の呪士の日女神子さんですか!?」


 その声で我に帰った雷童丸は、慌てて彼女に強張った面持ちで尋ねる。


「いかにもそうじゃが……そなたは?」


 すると、彼女は無表情のままに、抑揚のない声の調子で訊き返す。


「お、おいらは鳴神の呪士・兵主雷童丸といいます!」


「鳴神……おお。風の噂で耳にしたことがあるぞ。史上最年少で呪士になったという者じゃな……なるほど。どおりで五行でいえば〝木性〟、八卦なれば〝震〟の気――即ち雷を生みだす気をその身に纏っているわけじゃの。そのとなりにいるウサギはそなたの霊獣か……して、我に何ぞ用か?」


 雷童丸の素生を聞くと、日女神子は納得したようにそう答えた。


「あ、はい! おいらは玉依の民の、神宮のオババさまの遣いで参りました。えっと……これをご覧くだい!」


 日女神子の放つ後光に思わず緊張しつつも、雷童丸はあたふたとそう手短に説明して、オババさまより預かった勾玉の首飾りを懐から取り出して見せる。


「オババの? ……うむ。確かにそれはオババの勾玉のようじゃの」


「はい。オババさまがこれを見せるようにと、おいらに貸してくれたんです。それから力添えを願うようにと……お願いします! おいらにクシナダの姫を止める方法を教えてください!」


「クシナダの姫……」


 その名を聞いた瞬間、無表情ながらも彼女は微かに目元を鋭くする。


「そういう話か……よかろう。まあ、ともかく中に入るがよい」


 今の話だけですべてを察したのか? 日女神子はくるりと雷童丸に背を向けると、清楚な祈祷所の中へと彼を誘った――。




「――なるほどの。そういう仔細か……織田がクシナダの姫の力を求めようとはの……」


 祈祷所の道場で、合羽も脱がぬまま板敷きの床に座る雷童丸は、これまでの経緯をすべて日女神子に語って聞かせた。


 白木で造られたその道場はオババさまの屋敷の大広間と同じような作りをしており、上座正面に設けられた祭壇の前に日女神子は座り、雷童丸の話に静かに耳を傾けている。


 また、その左どなりには彼女の神威をいや増すかのように、立派な朱漆塗りの弓が一張、台座に立てかけて置かれているのであるが、さらにその弓の天辺には世にも珍しい三本脚の烏が止まり、艶々と美しい羽毛同様の漆黒の眼で雷童丸達のことをじっと動かず見つめている。


 三本脚の烏……それは神話に云うところの神倭伊波礼琵古命かむやまといわれびこのみこと――初代の天皇・神武じんむ日向ひむか高千穂たかちほ(※現宮城県もしくは北九州)から大和まで進軍した〝神武東征〟の折、高天原たかまがはら高皇産霊神たかみむすびのかみに遣わされ、神武を熊野から大和へ導いたという神使〝八咫烏やたがらす〟を髣髴とさせる。


 他方、中国の民間信仰・道教では太陽の化身〝金烏きんう〟とも称されるものでもあり、おそらくこの烏が日輪の呪士である日女神子の霊獣なのだろう。


「グルル……」


 彼女の霊獣が秘める強大な力を感じてか、雷童丸のとなりにちょこんと座る三日鎚もなんだか落ち着かない様子である。


「そんなわけなんで、クシナダの姫の力を止める方法を教わるよう言われて来たんですが……あの、それができるのは日輪の呪士である日女神子さん以外にはいないとオババさまは言っていました。それって、いったいどういう意味なんですか?」


 雷童丸も日女神子の纏う神聖な雰囲気に気負されながら、それでも意を決すると、ずっと得心いかなかったそのことを思い切って尋ねてみた。


「フフ…己も呪士なのだから、我を頼らずともそのようなこと自分一人でできる……と言いたげな顔をしておるの」


 すると、彼の心の内を見透かしてでもいるかのように、日女神子は微かな笑みを薄らと浮かべてそう答えた。


「い、いえ、そんなことは……」


 図星なところを突かれ、雷童丸は言い淀む。


「隠さずともよい。力ある者がそうのような思いに捉われるのは自然の理。これもまた因果応報、そう考えるのも無理はなかろう……だがの。オババの言う通り、クシナダの姫が力を発動させてしまったならば、それを止められるは我か、我がその方法を授けた者しかおらぬ……正確にはクシナダの姫の呼んだスサノオをだがの」


「だから、それはなぜなんです!?」


 今度は正直な気持ちを表に出して、雷童丸は再び尋ねた。


「……あ、すみません。つい……」


 思わず感情的になってしまった自分に気づき、慌てて謝る雷童丸だったが、日女神子は特に気にしている風でもなく、やはり抑揚のあまりない声で答える。


「よかろう。教えてやる……その答えはの、やはり神話の中にある」


「神話の中?」


「天照大御神が須佐之男命の姉神であることは知っておろう?」


「ええ、はい。まあ……」


 突然始まった神話の話に、少々面喰いながら雷童丸は頷く。


「死んだ妻の伊邪那美命いざなみのみことに会いに黄泉よみの国へ行った伊邪那岐命いざなぎのみことが、その穢れを払うために日向ひむか阿波岐原あわぎはらの清流に身を浸して禊祓みそぎはらえをした際、伊邪那岐命の左目から生まれたのが天照大御神、右目から生まれたのが月読命つくよみのみこと、そして、鼻から生まれたのが須佐之男命じゃ。いわゆる〝三貴子みはしらのうずのみこ〟じゃな」


「ゆえに、その三柱の神は姉弟というわけですね?」


「うむ。で、その生まれた神達に対して伊邪那岐命は、天照大御神には天上にある高天原たかまがはらを、月読命には夜の国を、須佐之男命には海原を治めるようにとお命じになった。が、須佐之男命だけはそれに従わなかった……それはなぜだか知っておるか?」


「確か、死んだ母神の伊邪那美命がいる黄泉の国に行きたいと駄々を捏ねたとかなんとか……」


 またしても神話の知識を試す日女神子に、雷童丸は記憶の糸を手繰ってそう答える。


「その通り……母恋しさに、顎髭が胸まで伸びるほどの大人になっても泣き喚き続けた。青山の木々が枯れ、河や海の水を干してしまうくらいの凄まじさでの。そのために悪神がはびこり、諸々の災いがあちこちで起こるようにもなった。それを見た伊邪那岐命は激怒し、須佐之男命を神々の世界から追放してしまうのだが、そこで姉の天照大御神にいとま乞いをするために向かった高天原でも、その激しさに山川国土を震え上がらせてしまう……とまあ、神話では語られておるのじゃがの。これらは荒ぶる暴風雨の神の姿を例えたものとも云われておる」


「ああ、そんなようなこと、オババさまも言ってました」


 日女神子の話に、雷童丸は先刻聞いたオババさまの言葉を思い出した。


「そうか。なれば話が早いの……で、そうした有様に天照大御神は須佐之男命が高天原に攻め込んで来たものと勘違いした。その疑いはあま安河やすのかわを挟んでの宇気比うけいという儀式で晴らし、一時は許されるのだが、その後も気性の荒い彼は高天原の田や水路を壊したり、御殿に糞を撒き散らしたり、服屋はたやに皮を剥いだ馬を投げ入れて服織女はたおりめを驚死させてしまったりと種々の乱暴狼藉を働き、ついには怒った天照大御神があま岩戸いわとに隠れるという事態を引き起こしてしまう」


「それがかの有名な天の岩戸の話ですね? 岩戸に隠れた天照大御神を天宇受売命あめのうずめのみことが裸踊りをして誘い出した……」


「ああそうだ。ちなみにその天宇受売命は玉依の民のような旅する巫女達の祖神おやがみとも云われておるな」


「そういえば、そんな話も聞いたことあるような……確かに踊って神懸かりするその姿は遊行ゆぎょうの巫女達と相通じるものがありますね」


 思いがけず出てきた玉依の民の名に、雷童丸は何か因縁めいたものを感じる。


「そうだな……少々話が逸れたが、まあそんなことで、なんとか天照大御神を岩戸から連れ出し、暗闇に覆われた世界も元に戻るわけなのだが、無論、それで須佐之男命の罪が消えるわけではない。彼は自らの犯した罪を償うために、千の台を満たすほどの供物を差し出す罰を科され、さらに髭と手足の爪を抜いて高天原を追放されることとなるのだ……さて、どうだ? そなたはこの神話からどんなことが見てとれる?」


 三貴志の誕生より高天原追放に至る記紀神話を一通り講じると、日女神子は最後にそう言って不可解な質問を付け加える。


「さ、さあ……まあ、須佐之男命はとんでもなく乱暴者だなと……ってか、やってること無茶苦茶ですね。反抗期にもほどがあるって感じです」


 急にそんなこと訊かれても、雷童丸にはそれくらいしか答えようがない。


「まあ、人の姿をした神と見れば確かにそう思えような……だが、高天原における狼藉も、やはり暴風雨神としての性格を表しているものとすれば不自然ではない……対して天照大御神は言わずとしれた日の神。とすると、これは天を照らす太陽と、それを覆い隠す暴風雨の関係を現した神話であると読み解くこともできる」


 雷童丸の感想を肯定しつつも、また別の見解を示して日女神子は続ける。


「そして、父神に追放された折にはそのもとを頼り、自分のせいで怒らせてしまった後には素直に罰を受け入れて天より去って行くというように、須佐之男命は姉である天照大御神に対して弱いのだ。いや、それどころか、この高天原追放の一件以降、ただの乱暴者だった須佐之男命は八俣大蛇やまたのおろちを退治して人々を救う英雄神へと変貌さえしてしまうのだからな……さあ、鳴神の呪士よ。そうなるとクシナダの姫が呼び出したスサノオを如何にすれば鎮められると思う?」


「……天照大御神の――日の神の力を使う……ということですか?」


 核心を突くその問いかけに、雷童丸はしっかりとした口調でそう答えた。彼にも日女神子の言わんとしていることがだんだんとわかってきたようだ。


「正解だ。さすがに最年少で呪士になっただけのことはある。飲み込みは早いの……」


「でも、それだったら他の呪士や呪い師、神官、仏僧なんかでも、日神ひかみ系…特に天照大御神の呪法が使える者ならば……おいらだって多少は使えると思いますし……」


「いや。それがそう簡単にはいかなくての」


 最後に残ったその疑問も、日女神子はぴしゃりと切って捨てる。


「ただアマテラスの力をスサノオにぶつけようとしてもうまくはいかん。クシナダの姫のスサノオを降す力は他のどの術者よりも強いからの。呼び出した神同士の争いでは勝つことはできぬのだ。やるならば、クシナダの姫自身を止めねばならぬ」


「それが、あなたにはできると……」


「うむ。長らくこの地にいるせいか、神宮のオババとは古くから親交があっての。いろいろと教わって、クシナダの姫のことも少々研究したことがあるのだ。加えて我は日神系の呪術を得意とし、今は天照大御神に仕える〝日輪の呪士〟……我ならば、クシナダの姫を止める手立てを持っているのだよ」


「………………」


 きっぱりとそう言い切った日女神子の言葉に、雷童丸は息を飲んだ。


「……し、師匠! その方法をどうかお授けください!」


 直後、それまでの態度とは一変。平身低頭すると彼女を師匠と呼んで教えを乞う。


「よかろう。他ならぬ天照大御神の弟神・須佐之男命に関わることゆえ、本来なら我自身が赴きたいところではあるが、こうして世俗との繋がりを絶っている身だからの。この役目、そなたに託そう」


 その頼みを、日女神子は意外なほどあっさりと承諾した。


「ちょっと待っておれ。よい物を遣わそう……」


 やけにすんなり話が進み、少々肩透かしを食らったような顔をしている雷童丸にそう告げると、日女神子は振り返って祭壇の方へと静かに進む。


 そして、二礼二拍手一礼すると祭壇に載っていた桐の箱を取り、雷童丸の前へ持って来て置いた。


 掌を広げたほどの大きさのある、薄平たい正方形をした箱である。


「これは?」


 当然、それがどういったものなのかわからず、雷童丸は怪訝な顔をして日女神子に訊く。


「開けてみるがよい」


 だが、答える代わりに日女神子はそう言って促す。


「じゃ、遠慮なく……」


 雷童丸はおそるおそるその白く清らかな桐の箱を手にとって開けた……すると、中には紫色の絹で包まれた物体があり、さらにその布を広げてみると一枚の鏡が出て来る。


 神代の時代を思わすような、青銅でできた古代様の鏡である。


 裏面を上にして置かれており、そこには何やらいろいろと幾何学模様が鋳出されている。ただ、その表面に緑青は吹いておらず、全面ピカピカと金色に光って、古いどころか、ごく最近作られた真新しい代物であるかのように思われる。


「それは八咫鏡やたのかがみだ」


「ヤタノカガミ? …って、あの八咫鏡ですか!?」


 八咫鏡とは、草薙剣くさなぎのつるぎ八尺瓊勾玉やさかにのまがたまとともに天皇の証である〝三種の神器〟を構成する神宝の一つであり、また、伊勢の内宮に祀られている天照大御神の御神体でもある。


「無論、本物ではない。かような事態のことを思い、新たに作らせておいた模造品だ。大きさも本物は二尺(約四六センチ)ほどあるが、これは携帯に便利なよう半分くらいにしてあるしの。とはいえ我が聖別して祈祷を行い、アマテラスの力を宿してあるゆえ、擬似的に本物と同様の力を発揮することはできよう。ほれ、我が首から下げているものと同じものだ。ま、我のは銅の代わりに黄金を材料にして作った強化版だがの」


 そう言うと、日女神子は自分の首にかかっている神鏡を手に取って雷童丸に示した。


「……これを、どうしろと言うんですか?」


 だが、そちらには目を向けず、畏れ多い様子で箱の中の鏡を覗き込みながら雷童丸は尋ねる。


「もしもクシナダの姫が神憑りになってスサノオ――即ち暴風雨を呼び出してしまったら、この鏡にアマテラス――つまりは太陽を映し、その反射した光をクシナダの姫の顔に当てるのだ。さすれば須佐之男命を宿した姫の中に天照大御神も入り込み、その暴走した力を鎮めることができるはずだ」


「なるほど……そうすれば暴風雨も止み、お珠ちゃんも元に戻せるってわけですね!」


「そうだ……ただし、問題が一つある」


 クシナダの姫の力を止める方法を伝授され、ようやく顔色を明るくする雷童丸だったが、日女神子はそれに水を差すかのようにまた付け加える。


「問題?」


「当然のことだが、クシナダの姫がスサノオを呼び出している最中、天は雨雲に覆われ、太陽は顔を出しておらぬ。従って、この呪法を使うためには少なくとも一時的に自力で雨雲を排し、日の光を地上に降り注がせねばならぬのだ……ただ一筋でも日の光が射せばよいのだがの」


「自力で日の光を……」


「一つ忠告しておくと、特にそなたは〝鳴神の呪士〟。その得意とする呪術は暴風雨であるスサノオと同系統だ。つまりはそなたにとって、この注文は非常に相性の悪い分野……そんなそなたに、かような芸当は可能かの?」


「……わかりました。一つ考えがあります。おいらに任せといてください」


 しばし逡巡の後、しかし確たる自信を持って雷童丸は頷いた。


「うむ。なれば任せたぞ、鳴神の呪士。万が一の時には我に代わってクシナダの姫を止め、スサノオの乱用を防ぐのだ。我もこの内宮にて、そなたの健闘を祈念することとしよう」


「はい! ではこの八咫鏡の小型版、遠慮なくお借りしていきます! 事がすんだら、ご報告がてらまたお返しに来ますんで」


「いや、それにはおよばぬ。万が一のことがなくとも、それはクシナダの姫に渡してやるとよい。それを身に付けておればスサノオを呼ぶ力を抑制できるゆえ、今回のように悪用しようとする者が出てきた時にも安心じゃ」


「へえ~…そんな効用もあるんですね。なんとも便利な鏡だ……わかりました。ありがたくそうさせていただきます。それじゃ、一刻の猶予もないのでこれで……行くぞ、三日鎚!」


 鏡を懐に納め、日女神子にもう一度頭を下げると、雷童丸は挨拶もそこそこに慌ただしく祈祷所を後にして行く。


「うむ。それではまたの。鳴神の呪士よ」


 背後では、やはり抑揚のあまりない落ち着いた声で日女神子がそう言っているのが聞こえる。


 そんな声に送られながら内宮の神域を一気に走り抜けると、雷童丸はまたも三日鎚に乗って・・・、遠く離れた御蔭屋へと全速力で向かった――。

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