★★★ Excellent!!!
太宰治の「駆け込み訴へ」を広角にした印象、かつそれ以上の満足感 藤原えりこ
流麗な文章で読みやすく、とても素晴らしかったです。
太宰治の「駆け込み訴へ」を高解像度にしたような感じを受けつつ、「駈込み訴え」では得られなかった満足を感じています。
(もちろん、描かれるユダ像というのは違うわけで、それの好みというのもあるかもしれませんが。「イエスに非常に好意を抱いている」という解釈が共通していたので、このように感じたの思います)
太宰の「駆け込み訴へ」は、ユダを視点にしながらあくまで人間の情を描いているのに対し、この「カリオテの男」は、ユダの情を表現しつつ、「それらを回収していく、壮大な歴史と神のわざ」を思わせるという点が違うのだと思います。そして、それが私にとっては非常に好ましいのだと。
太宰の「駆け込み訴へ」は、太宰が当時寄せていた政治運動への想いを重ねて描いている…と言う批評を読んだことがあった気がします。だとしたらやはり太宰の「駆け込み訴へ」の読み方は、これをもってして聖書や周辺の歴史を再解釈する、といった営みのための文学ではないのだろうな…と思います。
多くの文学は「それが書かれた時代背景を学ぶ」ために(も)読まれると認識していますが、
「駆け込み訴へ」もそういった読み方をするか、あるいは多くの二次創作の如く人物の感情へのフォーカスを楽しむ、といった読み方をするか、どちらにしてもスケールが限定的になるため、いまいち没入できませんでした。…
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