概要
他のみんなが「ヒーロー誕生だ」と騒ぎ立てる中、僕だけは知っていた。『適合者』となった者が、どんな運命を辿るのか。
だからある日の帰り道、僕は思わず彼女に声をかけた。
「僕にできることがあったら、何でも言って」と。
これはかつて十五歳だった僕の、決して消えない心の瑕疵の話。
※サークル『菖蒲ノ庭』さまの『セカイ系アンソロジー』への寄稿作です。
おすすめレビュー
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- ★★★ Excellent!!!100万回切ないと言い続けても、本作の足元にも及ばない
タイトルからも、にじみ出ているんです。現実にはヒーローがやってこないって。理不尽な社会で、やるせない思いを抱えながら生きていくしかないんだって。
そんなこと、誰もが分かっているんです。苦痛を味わいたくないことも。
ただ、どうにもならない壁に突き当たったとき、ハッピーエンドの物語は必ずしも心を落ち着けてくれるとは言えません。短時間では処理しきれない切なさとやりきれなさが、読者の背を押すこともあるのです。
100万回切ないと言い続けても、本作の足元にも及ばない。そのような物語を読む時間は、あなたの人生の肥やしになるはずです。 - ★★★ Excellent!!!誰かの苦しみの上に生きている、「該当者以外」の残酷さ。
大きな危機が目の前に迫った時、人間の心は。
何か、ウイルスに怯える今の状況とも重なる気がして、背筋が冷えるような気持ちで読みました。
自分が難を逃れれば、それでいいのか。
任務に向き合わねばならない人、その苦痛を受ける運命に遭った人だけが、苦しめばいいのか。
何一つできないまま、不運に遭った人々を「不運だ」と遠くから見ていることしかできない私たち。
自分の中にあるその冷酷さに、自分自身に唾を吐きたくなるような気持ち。
——けれど、社会はいつも、誰かを踏み台にしながら当たり前に回っている。
これでいいのかと思いつつ、やはり何もできない——やりきれない循環がただ頭の中で巡る息苦しさを覚えずに…続きを読む - ★★★ Excellent!!!選択権のない《英雄》と誰も助けなかった『僕』のセカイ系
世界を救う英雄になった誰かの話、英雄に憧れた誰かの話、英雄に助けられた誰かの話。そうした輝かしい英雄譚が溢れるなかで、この小説は非常に異質です。
物語は空に割れ目ができ、世界が終焉にむかうところから始まります。
世界を救えるのは選ばれし《適合者》だけ。
学校で実施された適性検査の結果、選ばれたのは中学三年生の少女でした。
それを知った『僕』は友達のいない彼女に喋りかけ、任務までのあいだ、一緒に帰るようになります。
しかしながら、選ばれたものは世界のための《犠牲》となる運命なのです。
この《犠牲》という言葉。普通の英雄譚ならば、戦いに赴かなければならない、と続きます。
ですがこの小説にお…続きを読む - ★★★ Excellent!!!ヒーローを必要とするのは誰?
世界の危機からみんなを守るための『適合者』。それはたしかに、ヒーローの定義に該当するのかもしれない。
しかし自らヒーローたらんと願い、そうなりたいと思う人はどれほどだろう。
事実を知る『僕』は、ヒーローに温かい言葉を投げかける。
『適合者』はきっとそれで、いくらか救われただろう。気休めに過ぎなかったとしても、少なくともマイナスではない。
ならば彼も直接的に、あるいは間接的にヒーローだ。
だがその言葉は、本当に温かいのか。
世界を救ってくれるのは誰か。誰もが問いかけ、その登場を熱望する――が。誰が自分をヒーローとして推せるだろうか。
そう、あなたも。