きっと誰のヒーローにもなれない

作者 陽澄すずめ

86

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★★★ Excellent!!!

『ヒーロー』ではなく『傍観者』と『当事者』が居ます。
地球の災害を阻止するべく、選ばれし脳波を持った少女が英雄と言う名目で犠牲になります。
事実を知る少年の同情、そして悔恨の念。
痛快なヒーローの活躍劇では、ありません。
しかしながら英雄の自己犠牲で救われた世界が淡々と、えがかれるのです。
心に疑問符を投げかけてくれる物語です。生命の重さを考えさせてくれます。
ひたひたと深い読後感をもたらす短編を是非。

★★★ Excellent!!!

世界を救う英雄になった誰かの話、英雄に憧れた誰かの話、英雄に助けられた誰かの話。そうした輝かしい英雄譚が溢れるなかで、この小説は非常に異質です。

物語は空に割れ目ができ、世界が終焉にむかうところから始まります。
世界を救えるのは選ばれし《適合者》だけ。

学校で実施された適性検査の結果、選ばれたのは中学三年生の少女でした。
それを知った『僕』は友達のいない彼女に喋りかけ、任務までのあいだ、一緒に帰るようになります。

しかしながら、選ばれたものは世界のための《犠牲》となる運命なのです。
この《犠牲》という言葉。普通の英雄譚ならば、戦いに赴かなければならない、と続きます。
ですがこの小説においては、そうではありませんでした。
『適合者』は装置に繋がれ、意識もない植物状態となって、生かされ続けるのです。命を賭けた戦いに巻きこまれるならば、まだいい。そこにはみずからの運命を選択し、最悪の結末を拒絶する権利が残っています。勝てばいいのです。どれだけ無謀な戦いであっても。
ですが『適合者』にはなにもない。
戦いもなければ、冒険もなく、試練もなければ挑戦もない。

それでもなお、『適合者』は英雄なのです。
彼女は確かに世界を、救うのですから。

『僕』が彼女に懐いた感情は、なんだったのか。憐みだったのか。罪悪感だったのか。それとも――――

これを読み終えたあなたならば、どうでしょうか。
世界のために英雄となれと言われたら。

…………
……

あなたは、英雄になりたいですか。

★★★ Excellent!!!

世界の危機からみんなを守るための『適合者』。それはたしかに、ヒーローの定義に該当するのかもしれない。
しかし自らヒーローたらんと願い、そうなりたいと思う人はどれほどだろう。

事実を知る『僕』は、ヒーローに温かい言葉を投げかける。
『適合者』はきっとそれで、いくらか救われただろう。気休めに過ぎなかったとしても、少なくともマイナスではない。
ならば彼も直接的に、あるいは間接的にヒーローだ。
だがその言葉は、本当に温かいのか。

世界を救ってくれるのは誰か。誰もが問いかけ、その登場を熱望する――が。誰が自分をヒーローとして推せるだろうか。
そう、あなたも。

★★★ Excellent!!!

 目の前に、絶望的な運命を突きつけられた人がいて、そこに手を差し伸べるヒーローが現れて。

 そんな奇跡が一切ない、どこまでもリアルな物語。

 なんの覚悟もなく手を伸ばしてしまった少年に少女が放つ一言は、どこまでも私の心を抉りました。だって、私自身にも、ただ興味本位に手を伸ばしてしまった少年少女の頃があったのですから。

★★★ Excellent!!!

多分少女は、少年が「いいよ」と返事をしても同じ返事をしただろう。
本音は言えても、縋る程の信頼は無いそんな距離感の中学生のお話し。
少年も少女も、1歩足りなかった友情物語り。
少女以外の適合者の存在が、更に彼女の哀愁を誘う。

★★★ Excellent!!!

たった十五歳の少女に課された、あまりに重すぎる使命。
そばでただひとりその意味を知っている、平凡な少年。

少年の視点で描かれる二人の物語は、ときになにげなく、ときに淡々と進みます。
数少ないやりとりの中に、中学生らしい、未熟で不器用で、力を持たない者の心の叫びが垣間見えてきます。

自分が少年の立場だったら。
それとも少女の立場だったら。
色々なことを考えさせられる作品です。
きっと、大人だって、誰のヒーローにもなれないのかもしれません。

★★★ Excellent!!!

不思議な世界観の上に、重厚な人間ドラマを置いた作品です。
ご都合主義的な展開は一切無く、人の愚かさと無力さが描かれています。

それでも読んでいて鬱々としないのは、風景の描写の美しさや、主人公の若さのお陰でしょうか。
最期までひと息に読みました。

割れ目が消滅した後、適合者はどうなったのか。
そもそも本当に消滅したのか。
また現れないか。
主人公に業が巡ってこないか。

その後の物語まで想像させる余韻のある作品です。面白かったです。

★★★ Excellent!!!

 突如として現れた黒い「空の裂け目」。その裂け目が広がって臨界点に達すれば、世界は終わってしまうのだという。そしてその裂け目からは、絶えず有害物質が降り注ぎ、空気中を舞っている。そのため、外出時には防護マスクが必須だった。主人公はその世界の終焉を、まだ先の受験のように現実味がないものとして考えていた。クラスの少女が「適合者」に選ばれる前までは。
 主人公だけが知っている、「適合者」の末路。そして、自分だけが安全地帯に立っているという事実。
 主人公は少女と親しくなっていくが、それが後ろめたかった。少女はシングルマザーに育てられ、下の兄弟の面倒もみていた。そんな彼女は任務のため、一人で家や学校を去らなければならない。
 そしてついに、少女と過ごす最後の時間がやってきた。少女は主人公に、一つの頼みごとをするのだが……。その懇願は、まるで彼女の悲鳴のようだった。選ばれてしまった彼女と、選ばれることのない主人公。彼女のたった一つの願いが、主人公の心に傷を残す。
 あの悲鳴のような懇願に、答えられたなら、自分はどうしていただろう。
 
 この作品によって突き付けられているのは、読者自身の倫理観や正義感の真贋なのかもしれない。短編にしてこの深さと重み。圧巻とはまさにこのことだ。

 是非、是非、御一読下さい!

★★★ Excellent!!!

世界の終焉が近づいた世界。辺りを漂っている有毒物質、通称『空のかけら』が充満している。

適合者は定期的に選ばれ、世界を救う糧となります。世間的にはヒーローですが、内情を知ってる主人公にはそう思えなかった。

世界を救うヒーローとはなんなのか。適合者に自分は立候補できるのか。色々と人間の真意に問う作品です。