少女の懇願は、まるで彼女の悲鳴のようだった。

 突如として現れた黒い「空の裂け目」。その裂け目が広がって臨界点に達すれば、世界は終わってしまうのだという。そしてその裂け目からは、絶えず有害物質が降り注ぎ、空気中を舞っている。そのため、外出時には防護マスクが必須だった。主人公はその世界の終焉を、まだ先の受験のように現実味がないものとして考えていた。クラスの少女が「適合者」に選ばれる前までは。
 主人公だけが知っている、「適合者」の末路。そして、自分だけが安全地帯に立っているという事実。
 主人公は少女と親しくなっていくが、それが後ろめたかった。少女はシングルマザーに育てられ、下の兄弟の面倒もみていた。そんな彼女は任務のため、一人で家や学校を去らなければならない。
 そしてついに、少女と過ごす最後の時間がやってきた。少女は主人公に、一つの頼みごとをするのだが……。その懇願は、まるで彼女の悲鳴のようだった。選ばれてしまった彼女と、選ばれることのない主人公。彼女のたった一つの願いが、主人公の心に傷を残す。
 あの悲鳴のような懇願に、答えられたなら、自分はどうしていただろう。
 
 この作品によって突き付けられているのは、読者自身の倫理観や正義感の真贋なのかもしれない。短編にしてこの深さと重み。圧巻とはまさにこのことだ。

 是非、是非、御一読下さい!

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