サラマンドラ、サラマンドラ、火の中の竜

 いくつかの連作で綴られる、元・戦闘機と元・戦闘機乗りの物語。
 非合法な「配達屋」として飛ぶ「彼等」、其処に巡り合う人々の思い。
 今日も、翼を持った美しい火竜は、「たいせつなもの」を運び続ける。

 とある国の、とある戦争の「戦後」から始まり、戦争の中で取りこぼしたもの、置き去りにしたもの、残されたものを運び続ける「火竜」の翼。
 その火竜もまた、やがて至らねばならない「本当の終わり」のために、自らを運ぶ。 
 閉じた記憶を遡るような仕立てが、ときに美しく、ときに泥くさく、叙事的にして叙情的、静息にして苛烈な物語を形作り、ページを繰らせていく。
 架空でありながら、其処には確かにひとつの歴史、人々の存在があるのだと、強く印象付ける。
 そして何より、それを描き切ることが可能な知識と文章力の確かさが、この小説の高い完成度を支えている。
 読んで損はない。むしろ「読まねば損」だ。

 個人的に好きなのは、第二話の「アヒルたちの栄冠」。
 アヒルの「彼」の来し方往く末は、ただただ敬服と羨望の極みである。

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