「それ」はたとえば、己の隣にもありそうな

死なねばならないと口にしながら、斬ってはいけないと嘯く男があった。
奇妙で面妖な男である。
だが、斬らねばならないとなった。そして斬った。
つまり男は斬られてしまうこととなり、その真意は斬られて初めて語られる。
さて、異様なりし異容の語りの、はじまりはじまり。

短いながらも、引き込まれるような筆致で書かれた怪異譚。
淡々とした語りで進む話は、小泉八雲の怪談や山岡元隣の百物語評判の中に紛れていても、あるいは違和感を覚えないかもしれない。
その「男」の存在のつかみどころのなさが、背筋を束の間冷えさせる。
蒸し暑い夜、じっとりと汗ばむ中で読むのがお勧めかもしれない。

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