機密保持のため終戦時に処分された伝説の無敗機――、もうこれだけでも胸が熱くなるような設定なのに、無理難題に近い依頼を平然とこなしていく主人公の静謐な格好良さがたまりません。連作なので一つ一つはそれほど長くありませんが、その分ぎゅっと濃縮された読み応えがあります。
各エピソードには激しいドッグファイトや、哀しさがあふれる幻想的な光景や、男と男の矜持のぶつかり合いや――とにかく航空浪漫たっぷり。また、それぞれの場面でまるでコックピットに居るような臨場感が。そして、機体の描写が胸が痛くなるほど美しい。
谷甲州氏の航空宇宙軍史を初めて読んだときの感覚に似ています。興奮、大興奮です!!!
飛行機モノを探して辿り着きましたが、見つけられてラッキーでした!
キャラのさりげない行動描写やメカニック描写に体感を感じられる作品です。
機械の構造とかをある程度、把握していないと描けないと思いました。
こういった書き方が好みなのでよけいにハマってしまいました!!
動力のある機械系が好きな(フェチな)方にはオススメです!
セリフやキャラのちょっとした思考描写も効いてます。
世界観の説明も程よい具合に書かれていて飽きがきません。
物語のメリハリとか、いろいろ見習いたいです!
ジャンルはSFですが、シャレで敢えて“Sky Fantasy”での“SF”にさせてください!
人機一体。
機械を手足のように操るための理想。
この物語で随所に感じられる理想です。その理想を感じる箇所の描写では、作者さんの想いが、研究者にとっての研究対象へのように伝わってきた。
その想いが最も強く伝わってきたのがプロローグ。
この作品を読む資格を問うかのように、戦闘機サラマンドラの空中での行動描写(この箇所では戦闘描写とは書きたくない)が、プロローグでは最終場面までほぼ登場しない主人公の技量とキャラクターを読者へ叩き込んでくる。
「この描写に付いて来れますか?」
そう問われ続けるようなプロローグ。熱い、熱いんです。
このプロローグで戦闘機サラマンドラと主人公の驚異的な一体感と技量を叩き込まれた読者は、第一話以降で語られるヒューマンドラマで良い意味で息抜きしつつストーリーを楽しめる。
プロローグで熱くなった頭を冷やすような第一話の優しさ。
表舞台では光が当たらない水上機パイロットの悲哀や誇り、そして格好良さを第二話で描写して、作品世界へ没入させる。
第三話で再び息抜きさせ、第四話で敗者国の悲哀と伝えられるべき想いという形で主人公のバックボーンを厚くする。
最終話の第五話で、過去との決別と未来への温かさを示してきっちりと作品を締める。
作者さんが丁寧に作り上げた展開に感動しました。
そして読み終えて再び感じたのが、人機一体。
戦闘中、飛行中だけでなく、主人公の人生が人機一体なのだと感じさせられた。
熱せられたエンジンの臭いが、気持ちよさげに飛行する様子が、戦闘で傷ついた機体が、クールに見える主人公の内心を現わしていると感じた。
最後に、プロペラ機っていいですよね!
我々のものによく似たどこかの世界、熾烈な戦争をくぐり抜けた大陸の片隅で。
いまだ戦雲の名残漂う空に、かつて最強を謳われた幻の重戦闘機が羽ばたく――
何とも男の子の心をくすぐる基本設定で、物語は幕を開ける。語られるほどの伝説もない、消耗されていく低コスト機に身を預けて空を駆ける一パイロットの、憧憬と羨望に満ちたまなざし、されど握りしめて手放せない矜持を通して、傑作機サラマンドラのシルエットが、力強く美しく描かれる。
これだけでもすでに、ご飯がお腹いっぱい三食分は食べられる美味しさなのだが、さらに、さらに。
敗れ滅んだ国家が残した物言わぬ鉄の機体は、それを操るパイロットと保守管理を担う名整備士を得てその姿影をジュラルミンの肌に映すや、たちまち誇り高き火竜の最後の生き残りとして読む者の心に息づき始めるのだ。
その活躍の舞台は、ひとまず戦場ではない。名もなき人々の小さな願いを運び届け、危機にさらされた命を明日へ繋ぐ――航空郵便という全く趣を異にする世界だ。
作者の知識のあらん限りを尽くし、微に入り細をうがって描写されるのは、サラマンドラの先進驚異のメカニズム。
戦後数年を経てなお、同様のレシプロ機をしては太刀打ち叶わぬほどのオーバースペックは、爪牙を切り落とした非武装であってさえ、対峙するものの心胆を乱し凍り付かせる。
そしてそのメカニズムを介して描かれる、ユーリというパイロットの技術と精神――矜持と執念、そして不屈の魂。
サラマンドラ一機のみを擁する小さな小さな航空郵便社に持ち込まれる依頼は、どれも戦争の遺した悲しみや負の遺産をどこかに内包している。
それを解決していくユーリたちは、いわば「剣なき騎士」として、いまだ終らぬ戦争を、一種透明な諦観とない交ぜの希望を前照灯として戦い足掻いているように思われるのだ。
かくして、必然の如く訪れる最後の事件とその結末――それは、あなた自身の目と心で、確かめて欲しい。
時移り去り行くものへの挽歌と、折れ曲がらぬ心への讃歌がそこにある。
私見ながら、ロボットものも含めメカアクションを描く創作物において、何よりも大切で忘れてならないのは、作者がそのメカを実在の物の如く細部まで知悉し、弱点も長所も知り尽くしておくということだろう。
それがあってこそ、思いの強さとか熱い心とか、そんな曖昧で陳腐なものに頼らない、リアルなメカ描写が可能になるのだと思う。
その上でそこに強い思いと熱い心を持つ男、あるいは女が乗りこめば――乗り込んでこそ――メカ作品はただのスペック比較ではなく作者の知識の披露でもなく、冷たい鋼に命を宿し、あるかないかのわずかな可能性の中から血路を切り開く、生きたドラマを生み出すのだ。
本作、「サラマンドラ航空郵便社」は、その水準に達しえた稀有なweb小説の一篇だ。膨大な情報の海の中からこの奇跡に出会えた幸運に感謝する。
パッと読んだ感じ。割と用語的には硬派で、とっつきにくい印象があるかもしれません。正直な話をすれば、最後まで読み切った僕も細かな用語について正確に理解できたかと言われると。多少自信が無いのですが。
けれど、その上でこの物語にはロマンがあります。
架空の欧州大戦が終わった1950年代、かつての戦争で無敵の伝説を誇り、いまなお最強の呼び声高い重戦闘機CaZ-170”サラマンドラ”の物語。
ええ、これだけで伝わるはずです。大体ロボットアニメを鑑賞できる知識があれば大丈夫。この物語を最後まで読み終えればあなたにも、アルモドバル二十四気筒X型液冷発動機エンジンの鼓動が聞こえて来る筈です。
いくつかの連作で綴られる、元・戦闘機と元・戦闘機乗りの物語。
非合法な「配達屋」として飛ぶ「彼等」、其処に巡り合う人々の思い。
今日も、翼を持った美しい火竜は、「たいせつなもの」を運び続ける。
とある国の、とある戦争の「戦後」から始まり、戦争の中で取りこぼしたもの、置き去りにしたもの、残されたものを運び続ける「火竜」の翼。
その火竜もまた、やがて至らねばならない「本当の終わり」のために、自らを運ぶ。
閉じた記憶を遡るような仕立てが、ときに美しく、ときに泥くさく、叙事的にして叙情的、静息にして苛烈な物語を形作り、ページを繰らせていく。
架空でありながら、其処には確かにひとつの歴史、人々の存在があるのだと、強く印象付ける。
そして何より、それを描き切ることが可能な知識と文章力の確かさが、この小説の高い完成度を支えている。
読んで損はない。むしろ「読まねば損」だ。
個人的に好きなのは、第二話の「アヒルたちの栄冠」。
アヒルの「彼」の来し方往く末は、ただただ敬服と羨望の極みである。
大竜公国の敗戦での戦争終結後。
現在は一機も残っていないとされる、
大竜公国の伝説の戦闘機の姿が目撃される。
そして、とある国に、どこにでも荷物を届けるという、
モグリの航空郵便社が存在した。
連作短篇です。
いくつかの依頼を果たすうち、
伝説の戦闘機の飛行士は何者か、
なぜ航空郵便を始めることになったか、
読者の前に次第に明らかになります。
何でそんな凄い戦闘機で郵便を!? と
最初はすごく驚きましたが。
「どこにでも」ということは、
警備されてて普通入れないところにも
敵機の追跡を撒いて届けないといけないわけで。
こちらから積極的に攻撃しないにせよ、
逃げ切れるだけのスペックは必要なわけだ……。
登場する他の飛行機乗りたちにも、
サラマンドラに比べれば地味な機体だとしても、
それぞれに矜持があるのが良いです。
面白かったです!