主人公はクールに、戦闘機は熱く読者を物語へ惹き込む

 人機一体。
 機械を手足のように操るための理想。
 
 この物語で随所に感じられる理想です。その理想を感じる箇所の描写では、作者さんの想いが、研究者にとっての研究対象へのように伝わってきた。

 その想いが最も強く伝わってきたのがプロローグ。
 この作品を読む資格を問うかのように、戦闘機サラマンドラの空中での行動描写(この箇所では戦闘描写とは書きたくない)が、プロローグでは最終場面までほぼ登場しない主人公の技量とキャラクターを読者へ叩き込んでくる。

「この描写に付いて来れますか?」

 そう問われ続けるようなプロローグ。熱い、熱いんです。

 このプロローグで戦闘機サラマンドラと主人公の驚異的な一体感と技量を叩き込まれた読者は、第一話以降で語られるヒューマンドラマで良い意味で息抜きしつつストーリーを楽しめる。

 プロローグで熱くなった頭を冷やすような第一話の優しさ。
 表舞台では光が当たらない水上機パイロットの悲哀や誇り、そして格好良さを第二話で描写して、作品世界へ没入させる。
 第三話で再び息抜きさせ、第四話で敗者国の悲哀と伝えられるべき想いという形で主人公のバックボーンを厚くする。
 最終話の第五話で、過去との決別と未来への温かさを示してきっちりと作品を締める。

 作者さんが丁寧に作り上げた展開に感動しました。
 
 そして読み終えて再び感じたのが、人機一体。
 戦闘中、飛行中だけでなく、主人公の人生が人機一体なのだと感じさせられた。
 熱せられたエンジンの臭いが、気持ちよさげに飛行する様子が、戦闘で傷ついた機体が、クールに見える主人公の内心を現わしていると感じた。

 最後に、プロペラ機っていいですよね!

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