その夏は彼らのこれまでを整理してくれた

 ひょんなことから遠縁のサヤを預かることになった主人公のツカサ。
 困惑しながらもサヤの家の問題が片付くまで、昔の恋人ミコトと一緒に生活することとなる。
 
 サヤとの生活の中で、ツカサは抱えているトラウマと向き合う。
 これまでの人生で壁にぶつかるたびに、そのトラウマのせいで前向きになれないのだと考えていた。

 しかし、それだけではなかった。
 ミコトと別れる原因を生み出したのはそのトラウマだったかもしれない。
 けれど、ミコトと別れたあとはそうではない。
 そのことに気付き、克服すべきもう一つのトラウマとも向き合おうと決意する。

 同時に、サヤもミコトも自分が抱えている問題に気付き、克服しようと決める。

 三人が一緒に暮らしたからこそ、各自は自身が抱える問題と向き合おうと思えた。 
 
 だが、三人とも特に努力したわけではない。
 三名で過ごす時間を無難にこなそうとしただけだ。
 サヤの家の問題が解決するための時間を、各自が各自なりに生活しただけだ。

 けれど、性差や年齢差がある三名が暮らすと、一人で暮らしている時とは異なる視点が必要になる。
 無難に過ごすために、お互いを気遣う必要が出てくる。

 多分、特にツカサにはその環境の変化が必要だったのだろう。
 自分と向き合うためには、気持ちの変化を促すきっかけが必要だった。
 

 サヤが自宅へ戻る時、三人は各々一歩前へ踏み出す。
 踏み出したからと言って、明るい未来が保証されるわけではない。

 だけど、前に進まなければこれまでと変わらない生活を繰り返すだけと三名は知った。

 この作品は、過去を乗り越えて、前に進んでいく勇気を持ちたいよねと読者に伝える。
 幸福な未来を掴むためにあがいてみようという人間らしさを見せる。

 私はそう感じたけれど、読者によっては別の感想が感じられるのではないかとも思わせてくれる。

 10万字程度、文庫本一冊程度の分量ですが、作者さんの描写が優しいためかサクサクと読めます。

 是非、三名のひと夏の共同生活から何かを感じ取ってみてはいかがでしょう?

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