第26話
何かを噛み潰した紀伊満の危険性が消失した。
死んだ……?
毒で自殺したのか?
何も起こる気配はないし、危険目視による反応もない。
完全なる死だ。
拍子抜けするような、呆気ない終わりだった。
最期まで何がしたかったのか訳が分からない奴だった。
死亡を確認している風紀委員を横目に、緊張が抜けて座り込んだ。
「お疲れ様でした。なんとも後味の悪い結末でしたね」
そう言って吉良さんが水を差し出してきてくれたので、受け取ってお礼を言う。
「紀伊満、何者だったんだ」
俺の呟きを聞いた風紀委員の一人が、何かを思い出したように振り向く。
「あの、紀伊満って言いましたか?」
「あ、はい。確かにそう名乗っていました」
俺がそう答えると、風紀委員は記憶を手繰るように話し出す。
「他校の友人から聞いたんですが、この世界がこんなふうになる前に、紀伊満という人物が傷害事件を起こして少年院に入れられたそうなんです」
「少年院に……?同一人物かもしれないですね。情報ありがとうございます」
「いえいえ」
それだけ言うと風紀委員は持ち場に戻っていった。
紀伊満が死ぬ間際に危険度が急上昇したのが気になるが、危険性は見えないし大丈夫だろう。
っていうか呪いとか掛けられてないよな?
確認しておこう。
「『ステータス』」
Lv.16
名前:オノ ユウジ
職業:隠者
生命力:35/35
精神力:25/25
筋力:34
魔力:17
敏捷:43
耐久:26(+38)
抗魔:19
◯状態異常
邪薔薇の血呪
◯魔法
ハイドアンドシーク(5)
◯スキル
順応性2.1 直感1.7 隠密2.0 不意打ち1.7 潜伏1.4 隠蔽工作0.9 槍術0.8 鈍器0.5 棒術0.4 短剣1.9 見切り1.6 格闘1.1 逃走0.8 疲労回復0.8 強襲1.3 音消し0.8 精神安定1.1 戦闘技術1.2 思考加速0.9 威圧0.9 投擲1.0 一騎当千0.5
◯固有スキル
危険目視
英雄の資格0.8
ステータスに異常はない。
レベルは上がっていないが、いくつかのスキル熟練度が上昇している。
いつの間にか英雄の資格の数値も上がっているな。
それにしても、ステータスが格上でも戦える危険目視スキルの有用性を再確認する。
この固有スキルには何度も助けてもらってきた。
「事件を解決していただき、ありがとうございました。お二人はこの後どうなさいますか?」
生徒会長のひかりさんにお礼を言われ、今後のことを聞かれた。
「俺はどうしても強くならないといけないから出発します。凛はどうする?」
仲良しの友達がいるのなら、吉良さんはここに残るかもしれない。
吉良さんはとても頼りになるので、出来れば一緒に来て欲しいが……。
「もう、そんなこと聞かないでください。今更放ってはおけませんし、ついて行きます」
珍しく吉良さんが少し怒っているようだ。
兎も角来てくれるのならありがたい。
「よろしく。頼りにしてる」
「……はい!」
その後、知りうる限りの情報を交換し、吉良さんの収納スキルの中にあった必要物資や野菜の種等を学校に分け与え、出発することにした。
「き゛ら゛り゛ぃ゛んんん、さ゛よ゛な゛ら゛ぁ!」
ひかり生徒会長はぼろぼろと涙をこぼしながら吉良さんと俺を見送ってくれた。
この人、吉良さんのこと好きすぎないか?
◇ ◇ ◇
モンスターを探す為に高台に登るか。
高いところ……昨日泊まった駅前のビルで良いか。
アクラリムの奴が寝てるとこ。
歩きながら生徒会長に聞いた情報を整理する。
やはりこの世界は強い人間がいる所にはそれ相応の強いモンスターが送り込まれているらしい。
それ故に警察や自衛隊は被害が大きく、現在は正常に機能していないそうだ。
なんでも警察署やヤクザが集まる屋敷などには拳銃の効果が薄い大柄なモンスターが現れ、更に自衛隊の駐屯地に現れた化け物などは想像を絶する強さだったらしい。
モンスターが出現してから時間が経っているので、もしかしたら既にその場を離れているかもしれないし、もしくは最初に召喚された場所を寝ぐらとしているのかもしれない。
何にせよ、予期せぬ場所に予期せぬモンスターがいる可能性も念頭に置いておかねばなるまい。
また、モンスターの中にはより強く進化するものもいるそうで、何でもない場所でも突発的に強力なモンスターが出現しているかもしれない。
あの赤ゴブリンのように。
そろそろ大柄なモンスターの相手も考えていかねばならないし、スコップとナイフ以外の武器が欲しいかも。
モンスターが持っていた武器は全て対人間用で、大きめのモンスターを相手にするのには心許ない。
駅前にあるというミリタリーショップに何か置いてないかな。
まあ、筋力も大分上がってきたから頑丈で大きな金属の塊とかあれば振り回して武器として使えるかもしれない。
それか、大柄なモンスターであれば召喚された時にそれ相応の大きな武器とか持ってきてるかも?
鹵獲して使うことも考えるか……。
途中ゴブリンを2度3度屠り、アクラリムが眠る駅前のビルに到着した。
アクラリムが寝ているからか、アクラリムを恐れて逃げていたモンスターが戻って来ているように感じられる。
とりあえず屋上に登るか。
ステータスのおかけで長い階段を苦もなく登り屋上へと到着する。
そういえばアクラリムのあの強烈なドス黒い危険性が見えないな。
どこかに行ってしまったのか。
そんなことを考えていると、コンテナの上に黒い色調のゴシックロリータ風の服を着た少女が座っていることに気が付いた。
えっ、どういうことだ?
「アクラリム、なのか?」
「やっ、深淵から覗く瞳に目薬一滴、アクラリムちゃんだよー」
手をあげてひらひらと挨拶するアクラリムだが、以前のドス黒い危険性は一切合切消え去っていた。
普通の少女と見まごうほどに。
──────────────────
とある少年院。
人間の死体がそこかしこに散乱する中、意識を失っていた男が目覚めた。
男の体には深い傷があり、そのせいで今の今まで意識不明の重体となっていた。
「……はは。成功した、成功した成功した!死亡時に発動する固有スキル、『生生世世』!他人を意識不明の重体に追い込んでおくことで、僕が死んだ時にその体を乗っとる固有スキル!」
叫んだことで男の体にある傷から血が滲む。
「いてて、自分で付けた傷だけど、先ずはこの体の傷を癒さないと。時間が掛かるなぁ。とりあえず死ねて良かった。拘束されて自殺も出来ないような状態にされたら最悪だった」
止血だけしてある痛々しい傷痕をさすりながら、無事に死ねたことを喜ぶという異様な精神性。
男の、紀伊満の精神は既に人間の物差しでは測ることの出来ないほどに狂っていた。
「『ステータス』、ああ、固有スキルは引き継げたけど、レベルは上げ直しか。まあいい、意識不明まで追い込んでおいたストックはまだいくつかあるし、『生生世世』さえあれば僕は不滅だ」
明かりのない部屋の中で、男は静かに笑い続けた。
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