第24話
早朝。
アクラリムが眠るコンテナの上に立ち、町を一望したところで強烈な違和感を覚えた。
吉良さんが通う高校、友島高校と言ったか。
その友島高校一帯が赤黒い危険領域で染め上げられていたのだ。
確か以前見た時は真っ赤だったが、更に危険性が上がっている。
何かが有ったのかもしれない。
「どうかしましたか?」
コンテナの上の俺を不安そうに見つめるジャージ姿の吉良さんの姿があった。
恐らく学校指定と思われるそのジャージは、寝起きの緊急事態でも即座に動けるようにするためである。
「実は……、今日になって吉良さんの学校の危険性が急上昇してね」
「そう、ですか」
吉良さんの明らかなる動揺が見て取れた。
やはり心配なのだろう。
「行ってみようか。強いモンスターとまともに戦える人間はまだ少ないだろうし」
「すみません、お願い……出来ますか?」
「ああ」
二つ返事で引き受けたものの、今回の相手の危険度は異様に高い。
もしかすると、レベルを上げて強くなった俺よりも強い可能性がある。
それでも、仲間である吉良さんの不安は早いうちに取り除いてあげたかった。
「朝ごはんを食べたらすぐに出よう」
吉良さんはこくりと頷き、屋上から建物の中へと入っていった。
改めて赤黒く染まった学校の方角へと向き直る。
アクラリムの荒々しかった危険性とは異なり、じっとりと陰湿に絡み付いてくるような危険性だった。
なんだか、嫌な感じがする。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
道中のモンスターを不意打ちで倒しながら、吉良さんの母校である友島高校へと向かっていく。
遠目から見える友島高校は小高い丘の上に立っている上に頑丈そうな塀に囲われており、バリケードを設置すれば立て籠るのに良さそうだ。
近づいて行くにつれ、校門の前に数人の生徒が思い思いの武器を持って立っているのが目に入った。
「あの、私達避難してきたんですが、中に入って大丈夫でしょうか?」
吉良さんは第一声でそう訊ねた。
彼女は既に友島高校の制服を身に付けている。
角が立たぬよう、避難してきたという設定でいくらしい。
「あ、どうぞっす。職員室があったところで構内にいる人の名簿を作っているので、ご協力お願いしてます、です」
受け答えしてくれた男子生徒は辿々しい敬語ながら、明るい声で招いてくれた。
学校内は想像していたよりも秩序立っているのかもしれない。
校内は主要な通路以外は机を並べて固められており、堅牢な要塞のようにも見えた。
机が無くなった教室には避難してきた人達用の居住スペースとなっているらしい。
職員室に向かおうとすると、吉良さんに袖口を引っ張られる。
「先に生徒会長室に寄っても良いでしょうか。私の友達の星野ひかりちゃんが生徒会長を務めてまして」
そういえば前に生徒会長は吉良さんの友達と言っていたか。
吉良さんにしては珍しくそわそわとしていて落ち着きがない。
少しでも早く友達に会いたいのかもしれない。
校門に立っていた男子生徒に聞いたが、モンスターが現れた際は教師の方々の多くが生徒の前に立って避難誘導を行なっていた為、そのほとんどが命を落としてしまったらしい。
その為、現在は臨時で生徒会長が全体の指揮を執っているそうだ。
吉良さんは生徒会長の友達としてある程度知られているのか、顔パスで生徒会室まで辿り着いた。
「あ、先に入ってください」
「?」
扉の前で唐突に順番を譲られ、吉良さんに背中を押されて心の準備も出来ないまま室内へとたたらを踏む。
「──どなたでしょうか。ご用件は早急にお願い致します」
良く通る凛とした声が響き渡る。
正面の机には「生徒会長」と書かれたアクリルのプレートが置かれており、その席には眼鏡の少女が座していた。
ナチュラルボブに整えられた髪は、水に濡れたカラスのように艶やかな黒色をしている。
この子が吉良さんの友達か。
そんな生徒会長の鋭い目付きが、室内に張り詰めた空気を生み出していた。
「えっと、俺は……」
「ひかりちゃん久しぶり、って程でもないか。危ないところをこの人に色々と助けて貰ったの」
俺が困っていると、吉良さんが後ろからすっと出てきて事情を説明してくれた。
ひかりちゃんと呼ばれた生徒会長は吉良さんの姿を認めると、驚いたように瞠目する。
数瞬の間を置き、生徒会長の凛々しかった顔がふにゃりと破顔する。
「ほわああああ!きらりーん!無事でよかったぁ」
先程とは打って変わって顔を綻ばせた生徒会長が吉良さんにほっぺをすりすり擦り付けている。
生徒会長からも吉良さんはきらりんと呼ばれているのか。
再会できたのが余程嬉しかったのか、二人はしばらくそのままこれまでの経緯を語り合っていた。
「ふぅ、お見苦しいところをお見せしました。私は当校の生徒会長を務めております、星野ひかりと申します。きらり……吉良さんのお話を聞く限りとても頼りになる殿方だとか」
吉良さんの名前を言い直して、生徒会長のひかりさんは続ける。
「現在、わが校にて憂慮すべき事態が発生しておりまして、貴方を実力者と見込んでご助力をお願いしたいと考えております」
「俺に手伝えることなら構いません。一体何があったんですか?」
「今朝、風紀員の戦闘要員の一人が校内で死亡しているのが発見されました。恐らく怪物が校内に潜伏しているものと思われます」
「校内にモンスターが……?」
俺が復唱すると、生徒会長は頷く。
「ええ。殺害された風紀委員の方は、特に対人においては無類の強さを発揮する方でしたので、怪物、いわゆるモンスターによる犯行だと思われます」
「人間に対して強い?それはどういうことですか?」
「ステータスのことはご存知ですよね。彼は不測の事態に強い直感スキルと『
とわずがたり?
どういった固有スキルなのだろうか。
「……『不問語』という固有スキルは、相手に自分が秘密にしておきたいことを明かす程、その相手と戦う場合に限りステータスが上昇するというものでした」
なるほど、人間などの言葉が通じる相手に対してならば強力なスキルだ。
更に不意打ちなどを防げる直感スキルを持っているのなら、モンスターの仕業と推定するのも理に適っている。
「そういうことでしたら、早く調査した方が良さそうですね。早速探してみます。凛、行こう」
「はい」
「私も同行いたします」
生徒会長も付いてくるようだ。
今日来たばかりの二人がうろうろしているのは怪しすぎるし、生徒会長がいた方が何かと都合が良いだろう。
「では、お願いします」
◇ ◇ ◇
生徒会長室を退出し、危険性がより濃くなっている場所を探して歩いていく。
どうやら階下の方が危険度が高いらしい。
一階まで降りてきたが、更に下へと続く階段の奥から赤黒い色が漏れ出ている。
「この下はなんですか?」
「この下は……確か半地下の物置部屋です」
地下の物置部屋と呼ばれた扉の向こうから、おぞましい何かを感じる。
「凛、武器と防具の用意を頼む」
冷や汗が一滴頬を流れる。
何かやばい奴がいる、……気がする。
ナイフを腰のホルダーにセットし、コボルトから奪った大型のスコップを手に持つ。
「ここが怪しい。開けます」
吉良さんと生徒会長と目配せし、扉の取手に手を掛けてゆっくりと開く。
地下特有のひんやりとした空気に身を包まれる。
緊張の中、薄暗い部屋の中へと静かに足を踏み入れた。
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