第37話
まるで木の枝のように扱っているが、重量は俺の持つ金属棒より遥かに重そうだ。
致命部位に当たってしまったら間違いなく死ぬ。
危険目視スキルによる相手の攻撃軌道予測から逃れながら思考する。
パワーもタフネスもやばいがスピードは何とか対応できる範疇だ。
敏捷をもう少し筋力に割り振るか。
(『再分配』、筋力敏捷耐久6:3:1)
抗魔に割り振っていた分と敏捷を削り、筋力へと注ぎ込む。
(立ち上がったオーガの頭部を狙うのは難しいか?脚を狙ってみるか)
オーガが棍棒を振り切ったタイミングで深く踏み込み、相手の膝へと武器を打ち付ける。
「ガァッ!」
オーガの苛ついたような声が響く。
先程よりはマシだが、まだ足りねぇ!
即座にオーガによる反撃が行われる。
ぶおんぶおんと風を切る音と共に、棍棒による滅多打ち。
(敏捷3割だとッ……結構、……キツい!)
敏捷を削った故か先ほどよりも避けるのに苦戦する。
時折背後から赤い線が伸び、吉良さんによるガンドが幾度となく撃ち込まれる。
しかし、オーガの生命力は非常に強いようで、弱る気配は無い。
「『◾️◾️◾️◾️』!」
オーガが何か呪文のようなものを唱えると、棍棒を持つ右腕がぐにゃりと変化した。
肉体を変化させる魔法!?
(『再分配』!敏捷極振り!)
すぐさま敏捷特化にステータスの再分配を行い、距離を取る。
筋力の激減により金属棒を持ち切れず、その場に取り落した。
敏捷を上げたことで余裕を持って相手の攻撃を観察しながら回避する。
オーガの腕は異様な程長く伸び、蛇のようにあらゆる方向へ曲げられる為に軌道が読みにくくなった。
危険性が目視出来なかったら避けるのに難儀しただろう。
しかし、参ったな。
敏捷極振りにすると武器が持てないし、防刃ベストが重すぎて動きの邪魔だ。
このままだと隠者の極意を使うしかないか……。
「切り替えていこー!」
やや離れた所からアクラリムの声が響く。
切り替えていく?
……やってみるか。
ひとまず今の筋力では重すぎる防刃ベストを脱ぎ捨てながら、残してきた金属棒へとダッシュする。
敏捷特化のステータスにより即座に距離を詰め、落ちている金属棒へと手を伸ばす。
(『再分配』、筋力耐久9:1)
自らの膂力によって自壊しないギリギリの耐久値と筋力値を設定し、床に転がっていた金属棒を持ち上げる動作から素早く投擲の動作へと繋げ、オーガの顔面へとぶん投げる。
(『再分配』敏捷極振り)
再度敏捷へと割り振り、素早く駆け出す。
風を切り裂くように疾駆したのち跳躍し、前もってオーガの顔面に向けて投げ付けておいた金属棒へと難なく追い付く。
己が武器を掴んだ瞬間、素早くステータスを切り替える。
(『再分配』、筋力耐久8:2!)
殴打した際の反動に備えて耐久に2割、残りは筋力へと注ぎ込む。
渾身の力で振り抜く。
オーガのこめかみを打ち砕いた。
(『再分配』敏捷特化!)
金属のように硬質な皮膚を砕かれながらも、オーガの戦意は未だ衰えず。
オーガは蛇のように長く変化した右腕をしならせながら、俺へと棍棒を振るう。
危険性を示す赤い領域が俺へと伸びてくる。
(やべ、空中じゃ身動きが──)
咄嗟に武器を手放して身を翻し、空中の金属棒を足蹴にして死地より脱出する。
幸いにも自らの体重を遥かに超える重量があるため、十分な反動が得られた。
危険目視スキルが表す危険地帯から逃れ、冷や汗を流す。
(あんまりぴょんぴょん跳ねるべきじゃないな)
新たな武器を吉良さんに出してもらうべく、少し後退する。
基本的にはこのヒット&アウェイ方式で武器を持てるだけの筋力と余裕を持った敏捷で相手に近付き、攻撃が当たる瞬間だけ筋力へと割り振れば有効打を与えられるはず。
(『再分配』筋力敏捷耐久4:5:1)
新たな金属棒を出してもらって受け取ると同時に、危険目視スキルがオーガを中心とした全方位への危険性を報せる。
音による攻撃!?
いや、危険性は何かに当たると消える。
何かに当たるまで進み続ける魔法による攻撃か?
「凛!俺の後ろで屈め!」
片手で金属棒を体の前面に構え、残りの腕で顔と首をなるべく防御し、再分配を発動させる。
(『再分配』!耐久抗魔4:6!)
「『◾️◾️・ ︎◾️◾️ ◼︎ ◾️◾️ 』ッ!」
再分配を終えた瞬間、オーガの叫びと共に目には見えない魔力の波動が全方位に放たれる。
粉塵が巻き起こり、周囲一帯に亀裂が生まれる。
「いってぇ……ッ」
アクラリムと戦った時以来のダメージだ。
全身を木製バットで殴られたような痛みはあったが、防御方面に割り振ったおかげで致命的なものではない。
「大丈夫ですか!?」
「なんとか。凛は身を守れる遮蔽物を取り出しておいてくれ」
背後の吉良さんを更に後方へと下がらせ、バリケードを設置してもらう。
俺一人なら危険目視スキルによって事前に避けられる。
金属棒を置き、再度ステータスを敏捷極振りに切り替える。
アクラリムの足止めにも限界はあるはず。
もう温存している場合ではない。
「『隠者の極意』」
半分の精神力を代償に世界の時間が緩やかに流れる。
1分間の敏捷増幅効果に全てを賭ける。
「『再分配』、筋力耐久8:2」
置いておいた金属棒を手に取り、易々とオーガの懐へと肉薄する。
殴打、強打、殴り、叩き、強撃する。
オーガの表皮を砕き、骨を折り、みるみる内に生命力を削っていく。
土砂降りの豪雨のような連打の果て、『隠者の極意』の効果が切れると共にオーガの巨体が崩れ落ちた。
「〜〜ッ!ぷはぁっ!はあ、はあ……」
1分間、呼吸も忘れてひたすら攻撃していた為、体が酸素を求めて深く呼吸を行う。
……よし、一体倒した。
途端、体が高揚感を覚える。
レベルアップしたのかもしれない。
しかしまだ終わりでは無い。
足止めをしているアクラリムの方を振り返り、ギョッとする。
彼女の左腕はあらぬ方向に折れ曲がり、全身の至る所から出血していた。
明らかに重傷だ。
「おい、大丈夫かそれ!?」
「この身体だとちょーっと厳しいと相手だったね。まあ死にはしないよ」
正直、アクラリムと初めて戦った時の印象が強すぎてコイツが手傷を負う場面など想像すら出来なかった。
しかし、考えてみれば今のアクラリムのステータスはレベル1の人間並みしか無い。
ステータスを弄れる俺ですら苦戦するのだから、少女が時間稼ぎしていることこそがあり得ないのだ。
オーガは片割れを倒した俺を警戒しているのか、次の行動を考えあぐねているようだ。
アクラリムはふらふらと覚束ない足取りで後ろへさがると吉良さんへ右腕を差し出す。
「きらりん、槍をちょうだい。英雄君はオーガの顔面に金属棒ぶん投げてよ」
警戒されてるから多分避けられてしまうんじゃないだろうか。
まあ、アクラリムの言う通りにしておくか。
「ボクの今の体には戦闘に使えるようなスキルは無い。経験から来る予測と直感で相手の動きを予想して回避しているだけなんだ。それなら──」
アクラリムの指示通り、金属棒を敵の顔面目掛けて投げ付ける。
直後に、アクラリムが吉良さんから受け取った槍を投げ放つ。
「──相手の行動を制限し、相手の思考を読み、相手の動作を予測し、未来の相手に対して攻撃を当てる」
オーガは俺が投げた金属棒を上体を逸らして避けるも、時間差で飛来するアクラリムの投げた槍への回避が間に合わない。
硬い外皮が無い部分、鎧の隙間を縫うように“眼球”へと吸い込まれるかのように槍が突き立った。
「
アクラリムは右手でVサインを作りながらぱたりと倒れた。
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