第33話
十分な収穫を得られたので、その日は探索を切り上げて休息を取ることにした。
危険が少ないビルを探して2階に陣取り、唯一の階段を吉良さんの収納スキルで取り出した障害物で塞いでもらって安全地帯を作り出す。
吉良さんに出してもらった水とタオルで身体を拭きながら、アクラリムへと詰め寄る。
「で、次は赤ゴブリンを狙うってマジか?あいつ素手でコンクリートの壁に大穴開けてたし間違いなくオークより遥かに強いぞ?」
「赤ゴブリン、正確にはゴブリンリーダーから進化したからゴブリンジェネラルかな?いやーワクワクするねー」
人の気も知らないでニコニコと楽しそうに笑うアクラリムに対して、流石に疑念を抱かずにはいられない。
「こう聞いた方が良いのか?なぜ、次は赤ゴブリンを狙う?」
「んー……ま、いっか。実は20レベルになると『職業』の次の段階、『本職』が解放されるんだよ」
「本職……?」
「そ。本職に就くとレベルアップ時のステータスの上昇値が上がるし、新しいスキルや魔法も得られるかもしれない」
「……」
それは……魅力的な話だ。
もっとも、ステータスのシステムについてはこいつより詳しい奴は居ないので確かめようがないが。
「更に更に、レベル40で上級職が解放され、レベル60で最上級職、レベル80で天職、レベル100で神職がそれぞれ解放されるよ」
「そう言われるとなんかゲームみたいだな」
要するにレベル20毎に新しいジョブが解放されていくということか。
ステータスの上昇倍率が上がるのなら、早めに本職を取得した方が良いというのも分かる。
しかし。
「──だが、よりにもよってゴブリンジェネラル、だったっか?……を狙う必要があるのか?」
「大アリだよ。キミには『英雄の資格』という固有スキルがあっただろ?あれの熟練度が1.0になると『英雄』っていう超つよいジョブが解放されるんだ」
「そのゴブリンジェネラルって奴を倒すと英雄のジョブが解放されるのか?」
「そだね。英雄の資格の1.0の熟練度というのは、正確には10の試練のことを言う。1つの試練をこなす毎に0.1ずつ上昇していくのさ」
「あー、なるほど……?」
「キミの英雄の資格の熟練度は多分0.8ぐらいだよね。あとはゴブリンジェネラルを打ち倒すことで達成されると思うよ」
レベル20で本職が解放される、本職は早めに決めた方がいい、英雄というジョブを解放したい。
この3つの要素から次の戦う相手をゴブリンジェネラルに決めたという訳か。
「俺って試練なんて受けたっけ?」
試練なんて大仰な物をこなした記憶はない。
「試練というのはカタチあるものじゃなくて、キミの経験の集大成だよ。絶対に勝てない強者から生き残ったり、弱き者を助けたり、単身で敵の群勢を打ち倒したり……って感じかな」
「なるほど……?そう言われると身に覚えがあるような……」
アクラリムから生き残ったり、アクラリムから皆を庇ったり、アクラリムにモンスターの群れの中に放り込まれたり……。
ん?大半はこいつが原因じゃね?
理由は分かった。
だが──。
「──倒せるのか?あんなヤバそうな奴」
「倒せるさ。キミときらりんのコンビならね」
「そこまで断言するか」
自信満々で言い切るアクラリムに、弱気な気持ちが嘘のように雲散霧消した。
「実はねー、作戦があるんだ。きらりーん!ちょっと来てー!きらきらきらりーん!」
「はいはい、なんですか」
アクラリムが吉良さんを呼ぶとそのまま作戦会議が始まり、ああだこうだと言ったり疑問をぶつけたりしている内に日が落ち、夜の
──────────────────
「じゃあ、本当に茂呂さん達は呼ばなくて良いんだな?」
「いざという時はテレポーテーションで逃げるから人は少ない方がいいね。ヘイト管理が大変になるし」
翌日の早朝、作戦の最終確認を行い、準備を整えて出発する。
目標は赤ゴブリンが根城にしていると思われる3丁目のコンビニの近くの集合住宅地だ。
危険目視スキルを活用し、無駄な戦闘は避けて目的地まで歩いていく。
アクラリムの『テレポーテーション』は精神力の消費が激しい為、温存しなければならない。
「この道は見覚えがあるな……」
この世界にモンスターが現れた日に通った道だ。
その道を通り、赤ゴブリンが居る目的のマンションまで歩いていく。
なんだか遠い昔のように感じるが、実際は数日前の出来事だ。
危険目視スキルによって赤ゴブリンの縄張りを示す赤いドーム状の危険地帯が見えてきた。
赤ゴブリンは恐らくこの赤いドーム内で同族のゴブリンが殺されると感知するスキルがあると思われる。
ここから先は戦闘を尚更避け、慎重に進んでいく。
目的地が近付き、七羽のカラスがモチーフのコンビニ、セブンレイブンが見えてきた。
このコンビニの裏手が目的の場所だ。
「よし、準備はいいか?」
「大丈夫です」
「おけおけー」
作戦を開始する。
危険目視スキルによって安全なルートを選び、『ハイドアンドシーク』で全員隠密状態になり、ゴブリンジェネラルがいるマンションまで進んでいく。
標的である赤ゴブリンが棲家にしているのは15階建ての大きなマンションだった。
既に周囲に人間は居ないのか、警戒は非常に疎かであり、建物の入り口まで難なく到着できた。
ここからは二手に分かれる。
俺は1人、吉良さんとアクラリム。
アクラリム自身も索敵スキルを持っているので問題はないだろう。
さてと。
ここではゴブリンを殺してしまうと赤ゴブリン、ゴブリンジェネラルに捕捉されてしまう。
なので俺は、危険目視スキルによって手近なゴブリンを探し、
金属の棒でゴブリンの頭をかち割り打ち殺した。
危険性を示す赤色が即座に視界を真っ赤に染め上げるていく。
「ガアァアアアアアアア!!」
上階の方から怒り狂ったような叫び声が聞こえ、爆発音のような音を響かせて近くの地面に何かが着弾する。
土煙で姿が見えないが、まあ赤ゴブリンしか考えられない。
ゴブリンジェネラルと呼ばれる赤いゴブリンは黄色い左眼を真っ赤に充血させて俺を睨み付ける。
体長は2メートル程でオークよりは小さいものの、全身には過剰なまでに引き絞られた筋肉が備わっており、体を動かすたびに強弓を引くようなギチギチとした音を立てる。
筋肉を構成する筋繊維の一本一本が恐ろしく強靭なのだろう。
「ガァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」
隻眼の怪物は充血した眼球をぎょろりと動かし、俺の姿に見覚えがあったのか更に怒りを燃やして叫び声をあげた。
俺のことを覚えていたのか?
そういえば、右目は俺が潰したんだったな。
「まずは囮と時間稼ぎだ。建物内で凛が赤ゴブリンと鉢合わせするのは避けたいからな」
俺は金属棒にダクトテープで包丁をぐるぐる巻きにして作った槍を構え、切先をゴブリンジェネラルへと向けた。
相手は素手。
とはいえ危険性は赤を通り越して赤黒い色をしている。
ゴブリンジェネラルから発せられる殺気が肌で感じられる程、空気がひりつく。
(油断したら死ぬな)
金属の棒を持つ手が緊張で震えそうになるが、力一杯握り締めることで無理やり震えを抑える。
危険目視スキルによってゴブリンジェネラルから俺の元へと一直線に赤黒い危険性が可視化される。
突っ込んで来るつもりか。
(来る!)
危険領域の色が最も濃くなった瞬間、真横へ向かって全力で飛び退く。
ゴブリンジェネラルは凄まじい跳躍力でロケットのように爆進し、数瞬前まで俺が居た空間を通り越してマンションの壁へと突っ込んだ。
大量の粉塵が舞い上がる先にはコンクリート製の頑丈そうな壁に大穴が空いているのが見えた。
食らったら間違いなく命は無いだろう。
(だが、危険目視スキルの予測と今の敏捷性が合わされば何とか避けられる……!)
できるだけ距離を空け、槍の矛先を油断なくゴブリンジェネラルの方へと向けた。
鮮烈な命のやり取りに脳の奥の方がざわざわとした感覚を捉え、俺は自らの生を実感する。
どうやら、俺はどうしようもなく戦うのが好きらしい。
大量の瓦礫を鬱陶しそうに払いのけたゴブリンジェネラルが立ち上がる。
激昂するかと思ったが、予想に反して冷静そうだ。
ゴブリンジェネラルは四足の獣のように姿勢を低く構える。
じわり、じわりと赤黒い危険性が視界の中に浮かび上がる。
(ここが正念場だ)
緊張のあまり呼吸を忘れていたのに気が付き、肺の中の空気を一気に吐き出し、身構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます