第3話
テレビのニュース内で少し動きがあったようだ。
ぼろぼろの格好の男性が、慌てた様子でアナウンサーへと一枚の紙を渡す。
『えー、ただ今最前線で戦う自衛隊員から緊急のメッセージが届いたようなので、読み上げます』
アナウンサーが読み上げた文章は砂嵐で途切れた所を補完すると、以下のようなものだった。
まず、突然の事態に国民の皆様のことを守れなかったことをお詫び申し上げます。
しかし、我々が命を賭して得たとある情報をお伝えしたいと思い、このメッセージを思い付く限りの場所へ送信致します。
良く聞いてください。
怪物を一体でも倒したら『ステータス』と呟くと、不思議な力が得られ、生存の可能性が上がると思われます。
信じて頂けないかも知れませんが、どうかお試しください。
繰り返しますが、『ステータス』です。
それと、我々の駐屯地の多くは非常に強力な怪物としか言いようのない生物のようなものに破壊され、奪われました。
我々自衛隊が怪物を抑え込んでいますが、いつまで保つか分かりません。
なるべく自衛隊の駐屯地からは離れるようお願い致します。
ですが、現在の日本、いや世界に安全な場所は確認できていません。
なるべく頑丈な建物の中に避難をしてください。
また、現在多くの電子機器が使用不可能となっていますが、なぜか完全に密閉されていた機械類や防水仕様の物は無事なことが確認されています。
最後に、本来国を守るべき我々が皆さんをお守りすることが出来ず、忸怩たる思いであります。
皆さんのご無事をお祈りしております。
以上です。
アナウンサーは動揺を隠し切れない様子で、そう伝えきった。
ステータス、か。
『地磁気への対策をしていた放送機器の多くが使用できず、予備バッテリーも間も無く切れます。私たちもこれで避難しますが、どうか皆様も避難して……生き延びて下さい。では、失礼します』
放送が切れたのか、画面は黒くなってしまった。
これは……。
世界に安全な場所はない。
言い知れぬ絶望感が俺を襲う。
それより気になることを聞いた。
俺は身を隠す為に高級車の中に入ると、先ほどのニュースで聴いた単語を呟いた。
「『ステータス』」
途端、視界に文字の羅列が浮かび上がる。
Lv.1
名前:オノ ユウジ
職業:[選択してください]
生命力:10/10
精神力:8/8
筋力:10
魔力:1
敏捷:11
耐久:8(+5)
抗魔:3
◯スキル
順応性2.1 直感0.9 棒術0.4 短剣0.3 隠密0.3
◯固有スキル
危険目視
「なんだこれ…」
あまりに非現実的な光景に、思わず乾いた笑いがでる。
まるでこれはゲームのシステムウインドウのようじゃないか。
試しにスキルの順応性という項目を触るような動きをすると、新たな文字の羅列へと変化する。
順応性
熟練度2.1
環境の変化に柔軟に対応することができるスキル。
どうやら、触れると説明が出てくるようだ。
今のところ一番気になるのは職業の部分の、[選択してください]という箇所だろうか。
俺がそこに意識を向けていると、
現在取得可能な職業
・冒険者
・戦士
・隠者
・自由人
という表示が現れた。
本当にゲームみたいだ。
ステータスの操作は触れなくても意識を傾けるだけで操作できるらしい。
選択肢は4つ。
Web小説ではこういうのは最終的に暗殺者系が強かったり便利だったりするよな。
大抵冒険者は基本職の器用貧乏、戦士は前衛職、隠者は恐らく隠密特化の暗殺者系統かな?
自由人はよく分からんけどゲームの遊び人みたいなものか?将来化けるのかもしれないが、今選ぶのはリスクが高そうだ。
こういうのは早めに選んだ方が良さそうな気がするし、どうしようか。
少し迷うが、暗殺者系に繋がりそうな隠者にしておこうか。
そう意識すると、選択肢における隠者の項目が数秒光ったように見えると、元のステータス画面へと戻った。
Lv.1
名前:オノ ユウジ
職業:隠者
生命力:12/12
精神力:9/9
筋力:11
魔力:2
敏捷:14
耐久:9(+5)
抗魔:4
◯スキル
順応性2.1 直感1.4 隠密1.3 潜伏0.5 隠蔽工作0.5 棒術0.4 短剣0.3
◯固有スキル
危険目視
全体的にステータスが底上げされ、敏捷に関しては数値が3上がっている。
直感と隠密の熟練度が上昇し、新たに隠蔽工作と潜伏というスキルが加わった。
ステータスを見渡して、一番下の項目が目に入る。
危険目視、時々視界が赤く染まるあれの正体だろうか。
俺は危険目視の項目を注視する。
危険目視
固有スキル
スキル所有者がダメージ等の被害を受ける可能性がある場合、危険な
危険度が高い程濃い色で目視できる。
やはりそうか。
どうやら危ない箇所が赤く染まって見えるらしい。
戦争中に銃弾が通る場所が赤い線のように見えたお陰で助かった、なんて話を聴いたことがあるが、きっとその類いのスキルなのだろう。
この危険目視というスキルが有れば、移動時のリスクをかなり抑えられそうだ。
車の外を視てみるが、今のところ赤く染まってはいない。
移動しよう。
車の外に出て、ぐるりと辺りを見回した。
今来た道は薄っすらと赤く染まっている。
モンスターが徘徊しているのかもしれない。
俺は先に進むことにした。
目的地は大型スーパー。
当初は要塞化に向いていないので興味はなかったが、今となっては有りだろう。
近所のスーパーには武器になりそうな物が置いていない。
逆に言えば、それに対応した危険なモンスターがいる可能性が低い、と思う。
スーパーで食料を確保し、頑丈な建物を拠点としよう。
拠点に向いてそうなのは……刑務所とか?
いや、武装した警備員とかが居たら強いモンスターが召喚されている可能性もあるか。
それじゃあ、高級志向のマンションとかどうだろう。
近所のマンションは敷地が高めの塀で囲われていて、出入り口が限られている。
マンション自体も正面入り口以外は頑丈な柵に覆われていて侵入が難しそうだった覚えがある。
頭の片隅にそれを置いておいて、今はスーパーに向かうとしよう。
黙々と進んでいくと、十字路へとぶつかる。
スーパーへと向かうなら真っ直ぐ行けば近いが、生憎真っ直ぐへの道が薄い赤に染まっている。
右の道に色は無いが、少し遠回りになる。
左の道は濃いめの赤。しかも完全な遠回り。
真っ直ぐ行くか右に行くか。
進行方向の真っ直ぐの道は薄い赤に染まっているものの、それ程危険性は感じない。
精々ゴブリン一体だろう。
どうしようか。
レベルというシステムが存在するのなら、今の内に上げておいた方がいい気がする。
スキルを使ってなるべく気配を消しながら、真っ直ぐ進むことにしよう。
なるべく息を殺し、音を消し、姿勢を低くしながら歩いていく。
薄かった赤色が更に薄くなっている。
どうやらスキルはきちんと発動しているらしい。
少し進むと、危険目視の赤色が前方の物陰に赤い点を示す。
敵が隠れているようだ。
その一点を注視していると、頭を僅かに覗かせ、辺りを見回す影があった。
ゴブリンだ。
偵察なのか、スーパーマーケットが見える位置からじっと店内を見詰めている。
ゴブリンはこちらに背を向けており、道路に点在する車を遮蔽物として使えば気付かれずに近づけそうだ。
俺は可能な限り静かに、にじり寄っていく。
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