北からの旅人

 その一団が来るのは、秋が終わり風がいよいよ冷たくなってくる頃だ。


 風に乗る木の葉の様にも見えるそれらは、言葉を持たず、ただ、はらりはらりと踊るような動きをしては、くるくると輪をかいている。


「ああ、もうそんな季節なんだねぇ」

『いよいよ、寒くなってきたものね』

 闇鴉たちが羽を震わせながら身体を寄せ合い囁き交わす。


 それらの名前は誰も知らない。

 果たして名があるのかさえも。

 半日ほど、そうして踊り続けた後で、また北へと戻っていくこの一団を、此処の住人たちは冬が来る合図にして「北からの旅人」と呼んでいる。


 それでなくとも温もりのない「夜の深淵」は冬になると尚更に冷え込んでしまう。


 だから北からの旅人が冬を伝えに来るこの時期に、夜の深淵の住人たちは、それぞれに備えをするのだ。


 ある者は長い眠りに入り、ある者はかたまりになり、ある者はほんの少しでも温もりの残る場所へと移動して。


 そんな住人たちを黒猫が欠伸あくびをしながら見ている。


 黒猫にとって、この場所は生まれた場所であり、そのものでもあるから。


 尻尾しっぽを揺らしながら黒猫は思う。


 自分にとっては、どんな季節でも充分に温かいのだ、などと言ったら、闇鴉あたりはうるさく騒ぎ立てるだろうな、と。

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