果てを視る眼

わしは此処で、ずっと『果て』をておるよ。


ん?此処こそが『果て』ではないのか?とな?

なんの、此処など、まだぬくみがあるわい。

あの弾けて歌うあぶく……

あれだとて哀しくも美しいじゃないか。

真闇のようでも何処かに、仄かな昏さの救いと慰めを残しておる。


『果て』というのはな、ただひたすらに、虚無なのじゃよ。

そう、何も無い。


夜の深淵、この暗闇すら色というものがあり、哀しみや憎しみや寂しさの破片が散らばっているというのにな。


迷ってきたもの、墜ちてきたもの、彷徨さまようもの、むものも……わしのようにな。


何故、わしが、果てを視ているのかじゃと?

それはな、果てにある虚無は油断すると、すぐに増殖して侵食してくるからじゃよ。


それは人間ひとや植物、動物、沢山の負の思念を喰ろうて広がっていくのじゃ。


この夜の深淵が、もしも『果て』の虚無に全て覆い尽くされることがあれば、世界もまた、ただでは済むまい。


此処はな、ある女の想いが夜と混じりあって出来た場所じゃ。

心の深淵を覗きこみすぎて、夜に魅せられてしまった女の……な。


その女がのこしたのが


夜ヲ想ウ、ウタ。


あのあぶくの声じゃよ。


儂もまた魅せられたもの。

あの女にか、声にか、この場所にか、それはもう遙か昔、忘れてしもうたが。


だからわしは『果て』をながら、此処におる。

さて、何ができるというわけでもないが、待っておるのかもしれん。


それは、いつか、やってくる破滅か、それとも……いや、わしにも、わからん。


ただ、待っておるのじゃよ。


ずっと此処で『果て』を見続けながら……な。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る