夜を旅するモノたち

ここは夜の深淵。


新月にそっと此処を通り過ぎて往くモノたちがいる。


孤影こかげ ”と呼ばれるは実体を持たない。

文字通り薄い影なので月の無い夜には人の目には見えない。

人の輪郭を持つモノたちが連なりながら、踊るようにユラユラと往く姿は、もし見ることができるものがいれば、幻想的にすら感じられたかもしれない。


孤影こかげ”が、何処から来て何処にいくのか本当のことは、誰も知らない。


ただ、噂によれば、想いのよどみともいえるものが、新月の夜に形を得て『果て』へと往くのだとか。


この夜の深淵を往き過ぎるのは、その為か。


「なんとも寂しげなものじゃ」

果てを視る眼が独りごちる。


孤影こかげ”たちは、ユラユラと音もなく、ただ通り過ぎていく。


「向かうのは、虚無へ、か」

黒猫が、ポツリと呟いた。


「救われない魂の影たちよ。

せめて、哀しい夢を見ずに眠れ……」


あぶくが小さく歌った。

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