夜の向こう側から

僕はただ歩いていた。


いつも、そうだ。

走るとすぐに息切れしてしまうから。


この夜の、ひんやりとした空気は好きだ。

束の間、僕の息苦しさを滑り落とす。


深呼吸を、する。

肺を夜の欠片が満たす。


立ち止まってはいけない。

たとえ少しずつでも

前へ

前へ

前へ

ススメ


どうして?


ふと、思う。

僕はどうして歩いていたんだっけ?

いつから?


立ち止まりそうになって狼狽うろたええる。

ダメだ

ダメだ

ダメだ

ススメ


どうして?


夜の向こうには深闇、

なのに足は止まらない。


終わる為に向かっているのか、

終わらせるのを少しでも遅くする為に、

走らず歩いているのか。


いつか終わってしまうのに。



怯えながら、

けれど惹かれるように、

僕は歩き続ける。


歌が、聴こえる。

あれは、

夜の深淵を覗き込み墜ちてしまったひとの

声、だろうか。


静かに流れていく、その声を聴きながら、

僕は夜を歩き続ける。


嗚呼、あれは、

酷く寂しい、


夜ヲ想ウ、ウタ。


最期のあぶくが弾けて

歌は、闇に、溶けた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る