黒猫と女

その女が夜に魅せられて夜と混じり合い、夜の深淵となった後、黒猫は目覚めた。


黄金色の瞳で辺りを見渡して、ゆっくりと伸びをする。

しなやかな尻尾は時に自在に大きく広がり、小さな子供くらいならば、フウワリと包み込めそうだ。


黒猫は夜の深淵ここから生まれた。

夜の深淵そのものであり、女の分身ともいえる存在でもある。

そして、夜の深淵の一番最初の住人。


黒猫に女の記憶おもいでは無いが、夜の深淵この場所の成り立ちは知っている。

そして、自身の存在の意味も。

黒猫は女の遺された想いの化身なのだ。


他の住人たちも知らないことだが、黒猫は半月の夜に、弾けたあぶくと一緒にひっそりと歌う。

細く流れる意外にも柔らかな声は、聴く者によって恋歌にも子守唄にもなる


夜ヲ想ウ、ウタ。


その時、黒猫に重なって、うっすらと幻のように儚く華奢な女の姿がみえることがあるのだけれど、これもまた、


誰も知らない。

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