黒猫のうたた寝(前編)

うつらうつら、尻尾を揺らしながら、黒猫はうたた寝から目覚める。


「おや、いつのまにか闇が随分と濁ってきたようだが」

夜の深淵はくらく深い場所だけれど、それにしてもこの澱み方はいただけない。


少なくとも、この一部であり全てでもある黒猫にとっては、自慢の天鵞絨びろうどのような毛が汚れてしまったような不快感があった。


「闇鴉たちにでも聞いてみるか」

ゆっくりと起き上がった黒猫は

いつも騒々しい闇鴉たちを探すが、珍しく見当たらない。


そして、いつも小さく流れ続けている泡の歌 夜ヲ想ウ、ウタが絶えていることに気がつく。


黒猫がその黄金色の目を細めて、深い闇の奥果てを見てみると其処にうずくまっている二羽を見つけた。


「いったいどうしたのだ。いつも騒がしいほどのお前たちが珍しい」

黒猫がたずねると


『「いや、恐ろしい恐ろしい」』

『何しろ、この夜の深淵よりも外の世界の方がくらくなってしまったんだから』

「そうだ、くらいと言うよりも、あれは酷い澱みだ」

『「その澱みが、この夜の深淵までも侵してきたんだよ」』

そう言って闇鴉たちは身をすくめた。


闇鴉たちの話を聞いて、黒猫は溜息をひとつ落とした。

「そうだったか……ほんの少し、うたた寝をしたつもりだったのだが、随分とまた」

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